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「久遠」20

 翌日は待ち合わせした時間に、僕は部室へと向かう。  神近くんはすでに来ていて、椅子に腰掛けてぼんやりと外を眺めていた。僕の姿を見るなり、椅子から立ち上がって近づいてくる。 「大丈夫ですか?顔色悪いですけど」 「うん。大丈夫。ちょっと眠れなくて」  僕はそう言って力なく笑う。朝食もあまり喉を通らなかったせいか、すこぶる体調が悪かった。椅子に座った僕を神近くんは、相変わらず不安げな表情で見つめてくる。 「なんか神近くんの不安そうな顔、レアかも」  僕がそう茶化すと神近くんは、ムッとしたような表情で「本気で心配してるんですけど」と声を低める。 「ありがとう。犯人は捕まってるし、もう大丈夫だよ」  そう言うと神近くんはジッと僕を見つめ、力なく椅子の背に凭れ掛かった。 「あの女にまた取り憑かれてる様子もないですね。父からもらったお守りは、肌身離さず持っていてください」 「大丈夫。ちゃんと持ってるよ」  神近くんのお父さんに、お祓いしてもらった時にもらったお守りは、ちゃんと鞄に下げて持ち歩いていた。 「なら良いですけど……無くしたら即、取り憑かれますからね」 「えっ……」  青ざめる僕に「嘘ですよ」と言って神近くんが口元を歪める。からかわれたのだと分かってムッとするも、いつもの神近くんだと安堵する気持ちもあった。やたらに心配されてチヤホヤされるよりも、こうやっていつも通りに接してくれる方が僕も気が楽だった。

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