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第10話

「いやいや、これは好きでこうなったんじゃないよ?」 「エスパー!?」 「…君、心の声が顔に出るタイプだよね」 なんだ…と…だから前の世界の高校の友人達に「司(つかさ)って隠し事出来ないタイプだよな」と言われるのか!? 顔をこねてポーカーフェイスになろうとしていたらミイラ男は頭を掻いた。 …その包帯、蒸れそうだな。 というかなんでそうなったんだ? ゼロみたいに誰かに戦いに挑まれてぼろ負けした、とか? なんか、あり得そうだな… 「昨日君と別れて帰ってきたらゼロに稽古に誘われてさ、珍しいなって着いて行ったらボコボコにされた」 はっはっはー!!と笑う内容じゃないぞミイラ男よ。 今日はこれから任務らしく笑いながら何処かに行った。 任務か、ゼロはいるか聞いとけば良かったな。 …いや、ダメだ…そんな事を聞いたら変な誤解をするに決まってる! とりあえず部屋に行こうと歩き出した。 ゼロの部屋の前に到着した。 ドアをノックする。 「おいゼロ、いるか?」 中で物音がするからいるだろう。 ガチャっと鍵を外す音とドアノブが回された。 ドアが開き、ゼロが姿を現した。 騎士の服を着ているからゼロもこれから任務だろう…ギリギリセーフ。 前みたいになんかする時間はないだろう。 ゼロの姿を見てから影がざわざわと元気になり俺の足に絡み付いてくるのを振り落とす。 「会いたかったよ、ハニー」 「誰がハニーだ…って、今日はそんな茶番をしに来たんじゃない」 危うく怒って帰るところだった。 ゼロは首を傾げている、白々しい奴め… 全部お前が仕掛けたんだろ?俺は知ってるぞ。 俺は足元でハートを飛ばしてる影共を指差した。 またなんかしてる、気にしたら負けなのかそうなのか。 俺は精一杯怒ってますという顔をしてムスッとしてみせた。 「これはどういう事か説明してもらおうか」 「これ?」 ゼロは何故か怒ってる顔の俺をうっとりした顔で見ている。 ……俺が怒ってるのが分からないのか? ゼロは足元の影共を見た。 完璧なポーカーフェイスになり何を考えてるか分からなくなった。 俺もこんなポーカーフェイスになりたい、変態にはなりたくないけど… しかしやはり俺の言葉が理解出来ないのか首を傾げている。 「…仲がいいね」 「お前がやったんだろ!影が操れるなら俺の影も操れるんじゃないのか!?」 「まぁ操れるけど、ツカサの影は操ってない…そもそも俺の影をくっ付けてるから操れない、俺の影は俺の意思だけど」 「…え?そうなの?」 「ただ、一日中くっ付いていたからツカサの影にも意思が芽生えたんじゃないのか?」 なっ、なんだってぇー!? じゃあ俺の影は自分からゼロの影とイチャついてるの!? また床をカリカリ引っ掻き離そうとするが、当然離れないしなんか妙な動きを始めた。 やめろ!なんかやめろ! もしや俺の影は既にゼロの影に侵食されたのか…? 涙目になりながらゼロを見る。 「ぐすっ、戻してくれぇー!!お願いだぁー!!」 「…ツカサ、戻す方法なら一つある」 「本当か!?」 俺はもう何でもすがりたい気分だった。 …目の前にいる男がゼロだと一瞬忘れるほどに… ゼロは俺の肩に手を置いてキラキラモーションで微笑んだ。 なんか生で見るの初めてだ、というか生でキラキラモーションがあるんだなと変な感心をしてしまった。 今俺を救えるのはゼロ、お前だけなんだ! ……お前のせいだけどな。 「影のように素直になって嫁に来れば気にならなくなる」 「分かった、素直になるよ!…全力でお断りします」 最後は真顔で言うと、ゼロも真顔になる。 お互い真顔になり変な空気が流れたところでゼロは部屋を出た。 ちなみにこのやりとりはずっとゼロが扉を開けた状態でやっていた。 …普通に部屋に入るわけないんで、当然だな。 というか影から助かるために人生捧げろとか可笑しいだろ。 俺自身以外なら聞いてやる、それ以外は却下だ。 「じゃあ俺、行くから」 「ちょっ…お前の影だろ!?放置すんなよ!」 「俺は解決策を言った、もう俺に出来る事は何もない」 嘘つけっ!!お前の影を戻せば簡単だろ!? しかも解決策にもなってない事しか言われてねぇっ!! ゼロはそのまま廊下を歩いていってしまった。 一人じゃどうする事も出来ず廊下に座り込む。 …くそぅ…覚えとけよ… 影のイチャイチャをなるべく見ないようにしながらトボトボと城を出た。 レイチェルちゃんの酒場に行って癒されよう、そうしよう。 酒場に行き、扉の前で立っていた。 ー休業日ーと書かれている張り紙を見て、目から雫が溢れた。 そりゃないぜ…

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