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第2話

兄の部屋を覗くと、側面に横付けされたベッドを背に、男がテーブル前に座っていた。男の正面に回り込むには距離があって。面倒を感じた僕は、男の脇に腰を下ろす。ラグマットの上に持っていたお盆を置くと、男の前に麦茶とお茶菓子を並べる。 『アゲハに似てるな、この角度』 『……え』 スッと伸ばされた手。その指先が、無防備な僕の項に触れる。 瞬間──ゾクッと身震いし、思わず首を竦める。 その反応が面白かったんだろうか。片手を付き、浮かせた腰を寄せた男が、触れているそこに顔を近付ける。 『……!』 ベールのように掛かる、熱い吐息。ゆっくり押し当てられる、柔らかな唇。 動けずに硬直していれば、揶揄うようにそこを食まれ…… 『お前、名前は?』 『………さくら』 『ふん。兄弟揃って、女みてぇな名前だな』 ゾクゾクする程、色気のある低い声。 掛かる吐息の強さから、男が少し笑ったのが解った。 それに気を取られていれば、視界の左右から太い腕が現れ── ……ふわっ、 背後から、柔らかな体温に包み込まれる。 それは泣きたくなる程、温かくて。守られてるみたいで。 幼い頃からずっと、欲しくて欲しくて堪らなかった温もり(もの)。 トクン、トクン、トクン、トクン…… 少しだけ早い鼓動。 切ない程に昂ってしまう感情。 僕の心音と男の心音が共鳴し、不思議と重なっていく。 心と心が触れ合って、ひとつになったよう。 『……』 強ばっていた身体が、ゆっくりと弛緩していく。 まるで陽だまり。心地良くて……ずっと、こうしていたい。 そう、願っていたのに。 ──ドスッ、 青天の霹靂。 突然、後頭部を鷲掴まれたかと思うと、荒々しくベッドに捩じ伏せられる。 縮み上がる心臓。 一瞬……何が起きたのか、解らない。 『……っ、!』 頭を上から押さえ付けられたまま、下着と一緒にズボンを下ろされる。何の準備もされていない後孔。そこに突き立てられる、男の凶器。 『……ぅ″、あぁぁ、あ″っ……、』 痛くて。──痛くて、痛くて。 泣きたくないのに。叫びたくないのに。次から次へと溢れて。意志だけでは止められなくて。 苦しさから逃れる為に息を吸い込めば、シーツから……アゲハの匂いがした。

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