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第51話
……ふわっ、
掬い上げるようにして、ハイジが僕を抱き締める。
「……そっか……」
「……」
「何も、されてねェんだな……」
「……」
酷く、ホッとした声。
それまでの狂気的な声色はすっかり消え、穏やかで……温かい。
トクン、トクン、トクン……
荒々しかったハイジの息遣いが柔らかくなり、脅え震えてしまう僕の身体をしっかりと包み込む。
その温もりに安堵の溜め息をつくものの、胸の内から罪悪感が広がっていく。
「……」
何も、されなかった訳じゃ無い。
だけどもし、その事実を知ったら……
怖ず怖ずと手を伸ばし、ハイジの脇腹辺りに触れ、その布地をしっかりと掴む。
……ごめんね。本当の事が言えなくて。
湧き上がっていく不安。
苦しくなる呼吸。
其れ等を打ち消したくて。そっと瞳を閉じ、ハイジの心音を全身で感じる。
「……」
ここが、僕の居場所──
僕にはもう、ここしかない。
諦めにも似た呟きを心の中でしながら、更に手を伸ばしてハイジの背中に触れる。
「……さくら」
耳元で柔く囁かれる声。それは、切ない程に弱々しくて。首筋に顔を埋めながら熱い息を吹きかけ、甘え縋り付く。
「このまま、……抱いてもいいか?」
首元に当たる、熱い唇。
震えるハイジの指先を背中に感じながら、回した腕に力を籠める。
「……うん」
きっと、ハイジも同じだ。
僕がハイジしかいないように、ハイジも僕しかいない──
……くちゅ、ピチャ、
開けたスクールシャツの下から覗く、ピンク色のふたつの突起。その片方をハイジの舌が這う。
そうしながら、寛がせたスラックスの中に片手が滑り込み、僕の下肢の中心を握り込む。
「……カンじて、んだよな」
何度か上下に扱いた後、ソレを確かめようとハイジが身体を起こす。
「ゃだ……」
「……ンだよ。見たっていいだろ」
身を捩りながら手で阻止しようとする僕を許さず、ハイジが僕の肩を押さえ付けながら、片手でスラックスを強引に摺り下ろす。
「明日から暫く、会えねェんだからさ」
「……、!」
その一言で、ひやっとした現実が全身に纏う。その空気を、ハイジも感じたんだろう。
僕を見つめるふたつの瞳が憂う。
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