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第57話

相葉 司 大堀が出て行って、朝まで寝ずに待ってはみたが…… 結局、あいつがここに帰ってくることはなかった。 両思い同士の告白なんて、結果は火を見るよりも明らか。 すべて分かって見送ったはずなのに、ちょこちょこと動き回る存在が急にいなくなるのは結構くるものなんだと…… 静かな部屋に1人でいると思い知る。 ようやく、失恋できた。 中学の頃からだから、既に7年くらい経つだろうか……? 大堀の片思いを笑えないくらいの長い恋にようやく終止符を打つことが出来たのに、気持ちは晴れるどころか日に日に沈んでいく。 そもそも最初は、あいつのことが好きだなんて気が付いてもいなかった。 むしろ嫌いで邪魔な存在だと、長い間そう思い込んでいた。 ――それなのに、いつからこんなに好きになってしまったんだろう……? *** 今思えば、大堀の横顔ばかり見ていた気がする。 大堀の視線はいつも片岡に向けられていたから、大堀を見る時は決まって横顔だった。 なんで大堀だったのかと聞かれたら、今でもよく分からない。 群を抜いて顔がいいとか、何かに秀でているとか…… そういう存在ではなかったと思う。 一番最初に「大堀 日向」の名前を知ったのは、中間テストの上位成績発表の時。 学年10位までが掲示板に張り出されるなかで、あいつの名前がそこにあった。 名前からてっきり女だと思い込んでいたが、同じクラスの大堀と一致するまでに大分時間がかかった。 授業中の姿から勤勉さとは無縁に見えたし、他の男子とじゃれあう姿はかなり幼い。 女子の視線を集める片岡と常に行動を共にしているせいか、小柄な体格のせいか…… 地味で印象も薄く、大した取り柄も見当たらない。 そんなあいつを目で追うようになったのは、大堀が追う視線の先に気が付いたから。 片岡をじっと見つめる視線に、違和感を覚える。 あれだけ目立てば同級生を憧れや尊敬、妬みの念を抱いてみるような輩もいたとは思うが、大堀の視線はそのどれにも当てはまらない気がする。 あれだけ仲良しこよしで一緒にいるから、同性の友達に対するヤキモチかと思いもしたが…… 心にもやりとしたものが残る。 それは、大堀が男に見せる媚びた表情が、俺の大嫌いな人間に重なったから。 そう見えてしまうと、ただのじゃれ合いに見ていたものが全く違う角度を持つ。 肩を抱き合ったり、男の身体に触れる指先に鳥肌がたち、苛立ちが募る。 男に抱っこされ可愛いと褒められて、照れたように笑顔を見せる姿。 そのあざとさに、見ているだけでイライラした。 ――他の奴は、大堀を不審には思わないのだろうか? むしろ積極的にスキンシップを楽しむような男たちを遠目に見つめ、呆れたように頬杖をついていると…… 片岡と視線が合う。 俺からわざわざ逸らすこともしないし、片岡も視線を逸らさない。 2人でしばらく見つめ合っていると、片岡が俺に視線を向けたまま大堀の背中をするりと撫でる。 大堀は片岡に照れたような笑顔を向けて、無邪気にじゃれ合う。 その笑顔を見て、げんなりしながら片岡を睨むと…… 勝ち誇ったような顔で俺を見ていた。 ――大堀は俺のもの……ってか? 馬鹿らしいと思いながら視線を逸らすのと同時に、今まで気のせいで片づけたことが確信に変わる。 やはり大堀の片岡を見る目は色を含んでいて、片岡も大堀をそういう目で見ている。 無駄にモテるくせに、いつまで経っても決まった女も作らずに男とじゃれついていると思ったら、そういうことかよ。 2人して気持ちが悪いと不快感を募らせながら席を立って、2人の間をわざと肩がぶつかるように通り過ぎる。 片岡は軽く俺を睨んだが、大堀はなぜか萎縮している。 ――俺が、怖いのだろうか……? それに気が付くと、なんだか余計にイライラした。

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