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第81話
サボカフェを出て、大堀と家に帰ったのは……
まだまだ明るい時間だった。
せっかくのデートだしどこかで美味い物でも食ってこようかと思ったが、大堀も俺も人疲れしてしまっていて……
結局、近くのスーパーで買い出しをした。
2人並んでキッチンに立ち、会話も弾まないまま淡々と仕上げていく。
それでも駅で手を繋いだり、人ごみに揉まれながらぶらぶらと歩くのに比べたら、気持ち的には数段楽しい時間だった。
テレビを見ながら腹を満たすだけの簡単な丼ものを平らげ、ソファで寛いでいると……
家に帰ってから口数の少なかった大堀が、独り言のように話し始めた。
「……なんか、疲れたな。」
俺の膝に当たり前のように頭をのせ、思い切り伸びをする。
本当に猫のようだなと思いながら試しに首筋を撫でると、くすぐったかったのか身体を捩った。
「だから、家にいたほうがよかったろ?」
俺がそう言うと、しばらく考え込んでから……
「家は落ち着くけど……。」
「けど?」
「たまには、ああいうのもよかったかも……。」
そう言ってふわりと微笑みながら、指を絡めてくる。
今は触れていることに安心感しかないが、あの時の緊張や興奮を思い出すと……
なぜかつられて笑ってしまった。
「そうだな……。」
その手をしっかりと握り返しながら、眠そうに欠伸を繰り返す大堀の唇にそっと触れる。
それは、触れるだけで溶けてしまいそうな感触。
指腹では到底物足りないが、キスは禁止と言われてしまっているから……
ふにふにと指で摘まみながら、埋まらない欲求を満たす。
「そういえば、お前はどうなんだ?」
「え?」
「デートの経験、あんのか?」
俺の言葉に、大堀はなぜか唸りながら目を閉じて考え込んでしまう。
「あるっていうか、ないっていうか……?」
「……なんだ、それ?」
「いや、ええと……砂羽と。」
その名前に、ふにふにと弄っていた指を離す。
「ああ。」
自分でも、心が狭くて嫌になる。
しかし、大堀から片岡の名前を聞くだけで、こっくりと落ち着いていた気持ちが急にざわめきだした。
「飯食いに行ったりとかはあったけど、デートっていうか……友達と遊ぶみたいなもんだったかも?」
「そっか。」
苛立ちを抑えるために煙草に手を伸ばすと、大堀が俺の膝から頭を起こす。
素っ気なくなったのが伝わったのか、オブラートに包まれた言い方をされた気がする。
そんな優しい気遣いにすらイライラして、目の奥にちらつく片岡の存在を煙でもみ消す。
大堀は俺のモノでもないのに、俺のことが好きなわけでもないのに……
片岡に負けていることが、ただ悔しい。
――自分で話を振っておきながら、何にキレてるんだ……?
望んではなかった言葉に勝手に傷つく自分に嫌気がさしていると、大堀が急にテレビを消した。
テレビの雑音のお陰で少し和らいでいた空気が、すっと張りつめる。
しんと静まりかえった部屋で、時計の秒針音だけがやけに目立った。
そんな妙に詰まった空気の中、大堀がおずおずと話し始めた。
「誰かと外で手繋いで街中歩いたの、初めてだったから……なんか。」
「……なんか?」
「なんか、ちょっと嬉しかったかも……。」
最後の方は消え入りそうな声だったが、それだけで十分だった。
照れくさくなったのか、再び俺の手に指を絡めて肩に頭を寄せてくる。
暖かな指の感触に、心地のよい頭の重みに、ささくれ立っていた気持ちが解れていく。
なんで、こんなに……
気持ちが落ち着かないんだろう。
ふっと息をつきながら、大堀の頭に自分の頭を重ねる。
「俺も、男と手繋いで歩く日が来るとは思わなかった。」
「相葉のせいで、変な目で見られた。」
「悪かった。」
「……素直な相葉とか、変な感じ。」
そう言って笑う顔に癒されて、なんだか堪らない気持ちになる。
細く骨ばった肩を抱きしめると、こてんと肩に顎をのせて、大人しく腕の中に納まった。
胸の鼓動や鼓膜を揺らす吐息。
その温もりすべてが愛おしくて、安心する。
「もう少ししたら、気にならなくなるのか?」
「え?」
俺の問いの意味は伝わらなかったようで、身動ぎながらこちらを見上げてきた。
「いや、他人の視線とか。慣れてないだけなのかなって……。」
「……うーん、どーだろ?」
大堀も唸りながら、俺の背中に手を伸ばす。
甘えるように動いた弾みで、首筋に滑らかな髪が触れる。
こそばゆいような感覚と、首筋に届く甘い吐息に……
先ほどの安心感が遠のき、むらっとした気持ちが身体中に広がっていく。
「……なぁ。」
「ん?」
眠そうな声でそう返事をする大堀を見ると、うつらうつら頭を揺らしながら目を閉じている。
このままの体制で本当に寝そうな勢いに苦笑いを浮かべながら、そっと肩から頭を剥がす。
「今、すげえしたいんだけど……。」
「え?」
俺の言葉にぱちっと目を開けた大堀と、視線が交わる。
しばらく無言で見つめ合っていたが、ふいっと視線を落とされてしまう。
先ほどまでいい雰囲気だったのに、なんだかぎこちなくなってしまった。
「キスだけだから……ダメ?」
そう駄目元で聞いてみると、俯いていた大堀がようやく顔をあげる。
「じゃあ、交換条件。」
「は?」
「透さんとどーゆー関係?」
「……透?」
「そう。なんか、親密じゃん?」
ここであいつの名前が出てくるとは思わなかったが、キスをお預けにするほどの隠し事ではない。
じっと見上げてくる澄んだ視線に、なんとなく言いにくいものを感じながらも……
大堀の口元に目が行くと、なんの躊躇もなかった。
「まあ、なんていうか……兄貴?」
「え、え、えーーーーーー?」
たっぷりと間を置いて、大堀は仰け反りながら顔を引き攣らせている。
「うるさい。」
「いや、だって……全然似てないじゃん!?」
「悪かったな?美人じゃなくて……。」
そういえば、最初から美人だ美人だと騒いでいたことを思い出し……
血が繋がっている身内としては、複雑な気持ちになる。
「いや、そこはいいんだけど……。」
「……で?」
「ん?」
「して、いいんだろ?」
こくっと軽く頷くのを見て、頬のラインを包み込みながら……
優しく触れる。
なんだか、久しぶりにキスした気がする。
唇に触れながらふと視線が絡むと、それだけで耳の辺りが赤らむ姿に鳥肌がたちそうな程の興奮を覚えた。
ぽってりした唇を軽く舐めると、半開きの口元から柔らかな舌が覗く。
ねっとりと吸盤のように絡みつく感触に、息をする暇も与えずにしつこく犯した。
ぴちゃぴちゃとした水音と荒い息遣いが、静かな室内によく響く。
少しでもびくりと肩を揺らしたところは徹底的に虐めながら、互いの身体をぴたりと密着させる。
腰骨がぶつかり、骨ばった膝をゆるゆると撫でていると……
やはり、キスだけでは物足りなくなってくる。
「ヤりたい」の4文字が、頭の中にぐるぐるとまわり始めた。
上顎を舐め上げると、しっかりと閉じられた瞼がびくりと震える。
内腿を丹念に撫でながら舌先を甘く噛むと、次第に股が開いてきた。
目線を落として確認すると、既にテントを張った性器がくっきりと浮き出ている。
それを見つめていると、風呂場でしゃぶった感覚を思い出す。
まだ実際には感じることが出来ないのに、大堀の雄の匂いが鼻先をくすぐった気がした。
性器をしゃぶるように舌をしゃぶっていると、唾液があの味と同じように甘く感じる。
その匂いに誘われるように、ズボンの縫い目に沿ってゆっくりと中心部に近づけても……
大堀はまだ抵抗をみせない。
調子にのってズボン越しに先端を手の平で丸く撫でると、それは流石に手首を掴んで拒まれた。
「……キスだけって、言ったろ?」
その言葉に仕方なく手を退けると……
すぐに足は閉じられ、体育座りの姿勢でガードされた。
「んな、完全ガードしなくても……。」
「相葉、エロいんだもん。」
「エロいのはお前だろ?」
「……俺?」
心外だと言わんばかりに顔を歪ませるから、無理やり股を開いて中心部を軽く掴んでやった。
「コレ、キスだけで勃ってんじゃん?」
「だーから、触るなって!」
虫でも殺しそうな勢いで手の甲をびちっと叩かれ、再び固く膝を閉じられてしまう。
「……風呂、入ってくるから。」
「ああ。しっかり抜いて来い。」
「……うるさい。」
「その匂い嗅ぎながら俺も後でするから、たっぷり出して来いよ。」
そう言って送り出すと、背中を見せていた大堀がわざわざ振り返って睨んできた。
「こんの変態っ!!」
風呂に入る前だというのに茹だった顔で思い切り怒鳴られ、可愛すぎてしばらく笑いが止まらなかった。
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