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第1話

 白雪林檎が目を覚ますと、3年の月日がたっていた。  自分がリンゴを食べようとしていたところまでは覚えている。  けれど、食べた味や食べてどうなったかの記憶がなく、ただぼんやりと目の前の光景を見ていた。  林檎が目を覚ましたのがうれしいのか、母親は泣き崩れていて、ジッと林檎を見つめる少し年上の男の子が、のぞきこむように座っている。  どこか遠い国の海のように、きらきらと輝く青みがかった緑色の瞳を見つめながら林檎は、首をかすかにかしげては口を開いた。 「…………ぇ……っ!」  喉がはりついたように痛んだ。声がうまく出せずに、せき込んででしまう。  その様子に両親は慌てふためき、男の子は傍らに置いてあったコップの水をふくむと林檎の頭を少し持ち上げ、口づけた。  冷たいような、あたたかいような水が喉を通り、潤していく。いくぶんか、喉の痛みがひき、せきも落ちつくと男の子は安心したのか、ほがらかに笑った。 「だいじょうぶ?」  林檎は、ゆっくりと縦にうなずいた。まだ、体が思うように動かない林檎には、それが精一杯の返事だった。 「……よかった」  男の子には伝わったのか、彼はそう呟くと林檎の深い海の底のような紺色の髪を優しくなでた。 「ぼく、おおじあおば」 「…………おぅ……じ?」 「うん、おおじ」  つたないながらも名前を呼ぶ林檎に、男の子は優しげにほほえんだ。 (ほんとうに…………おうじさまみたい)  6歳と幼かった林檎は、彼、大路蒼葉とどんな関係を結ぶことになるのか、決められてしまった運命に悩むことになるのをまだ、知らなかった。

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