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第1話

 俺は、ゲイだった。  割とモテていた俺は、女の子に言い寄られても全くドキドキしなかった。  おかしいと思った俺は男の幼馴染相談していろいろな事をしてもらった。  そんななか幼馴染を好きになってしまった。相手は、チャラ男で女の子が大好きで俺の事なんて何とも思っていない。  自分で認めてしまったものは抑えきれず何度も泣きながら自慰行為をした。それも相手を想像しながら何回も、何回も。  もう恋愛なんてしない、苦しいだけだ。そう胸に言い聞かせてモテないように前髪を伸ばして眼鏡をかけた。なるべく会話はしないように心がけることで立派な陰キャとなれた。  高校生になった俺は、先生紹介などもすべて終わった高校生活二週間目。  月曜日の五時間目の理科の授業。はじめて見た理科の先生が教室に入って来た。 「えーこんにちは。理科の担当の山下でーす」  胸に強く鋭い刺激が走った。こんなの初めてだった。胸が痛くて痛くて張り裂けそうだった。  久しぶりに思い出すこの感覚に俺は恐怖と嬉しさを感じていた。 「はじめましての人が大勢だと思うんでとりあえず質問どうぞ―いまなら何でも答えまーす」  へらっと笑う先生に俺の胸はずきずきといたくなる。  これは恋だった。ありえなかったけど恋だった。  人を好きにはならないなんて誓った俺が、五年ぶりぐらいに一目惚れをした。  一周回って面白くなってきてつい笑みがこぼれた。 「身長何センチですかー?」 「…………164センチでーす」  恥ずかしそうに言う先生に俺はさらにドキドキして質問の答えを覚える。  顔もカッコよくない、カーディガンの上から白衣だってブカブカでより幼児体形に見える。俺より身長だって20センチも低いのに……惚れる要素なんて何一つないのに。 「顧問はどこですかー?」 「男子バスケ部でーす。大学ではフットサルで日本決勝まで行きましたー」  自慢げに話す先生に不覚にも可愛いと感じてしまう。いとおしい。こんな事考えたことなんてない。 「もう質問ないですかー?」  そう言われて、俺は慌てて手を上げる。 「えーと……」  名簿で俺の名前を探す先生に俺は笑顔で答える。 「はじめまして、小川優姫です。よろしくおねがします」  久しぶりの俺の声に周りはざわっとする。そんななか先生だけはニコッと笑顔を返してくれた。 「はい、よろしくおねがいしまーす。質問は?」 「あ、はいえっと…………先生って彼女いますか?」  俺の質問に驚いたように目を見開いて「絶対こういう質問来るよねー」と赤くしながら言った。 「彼女はいないでーす。大学卒業してからは作ってないです」  俺は心の中でガッツポーズをする。俺にもチャンスがあるってことだ。  先生は恥ずかしそうに「これでおしまいっ!」と言ってさっさと教室を出て行ってしまった。その後ろ姿が見えなくなるまでいつまでも見つめていた。

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