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番外編 …試してみますか?
※此方は、頂いたイラストを元に、ssを書いたものです。
其方と合わせて読んで頂けたら幸いです。
◇◇
「……あの……珈琲でも、飲みませんか?」
「ん、ありがとう」
コトン、とテーブルの端にコーヒーカップを置けば、それまで仕事モードだった誠さんの雰囲気が緩み、僕の知ってる表情へと変わる。
辺りに広がっていく、ほろ苦い珈琲の香り。
長くて綺麗な指をカップの取っ手に絡め、口元にスッとその縁を近付ける様は、何だか絵になる位格好良くて。
その姿に魅入りぽやっとしていれば、誠さんの黒眼がスッと動いて僕へと向けられる。
その瞬間──かぁぁ、っと頬が熱くなり、両手で持っていた自身のティーカップに視線を落とす。
「そういえば、双葉はいつも紅茶のようですが。……飲まないのですか、珈琲」
ティーカップに視線を移した誠さんが、口の端を綺麗に持ち上げる。
「………飲まない、というか……」
香りは好きなんだけど……
飲むと苦いし、お腹も痛くなっちゃうし。
……それに僕は、誠さんみたいに……珈琲の似合う大人じゃないから……
「双葉」
カップをテーブルに戻した誠さんが数回瞬きをした後、俯いたまま瞳を泳がせている僕に、優しく微笑みかける。
「少し、試してみませんか?」
「………え」
何を、と尋ねる間もなく片手を取られ、慌てて持っていたティーカップをテーブルに置く。少し雑になってしまったから、零れちゃったかもしれない。
身体を此方に向け、自分のテリトリーに僕を引っ張り込んだ誠さんは、僕の腰にもう片方の手を添え、更にグイッと引き寄せる。
「………」
少し蹌踉け、誠さんの両肩に手をつく。
この体勢と、この距離感が恥ずかしくて。視線を横に逸らすものの、誠さんはそれを許してくれなくて。
愛おしそうに真っ直ぐ僕を見つめる、形の良い二つの大きな瞳──
「………わっ、……ん、」
その綺麗な瞳に視線が吸い寄せられれば、いつの間に回されたんだろう大きな手が、僕の後頭部を優しく包み誠さんへと導いて……
引き寄せられるまま、柔らかく重ねられる、唇と唇──
「……はぁ……っ、……」
「………ん、」
ねっとりと絡められる、熱く濡れそぼつ舌と舌。
その度に溢れ、零れそうになるお互いの蜜液。
優しく掻き混ぜられる度に、先程誠さんが口にした珈琲の味が、咥内いっぱいに広がっていき──
………くちゅ、……ちぅ……
……ぁ、ん…ぁっ、……
ほろ苦い、大人の味。
だけど、その奥から誠さんの味も感じられて……
ゆっくりと離された後、瞬きを数回した瞳が、鼻先の距離で僕を真っ直ぐに見つめる。
「……どう、でした?」
「………」
「双葉……?」
蕩けたままぼんやりとする僕に気付き、僅かに瞼が持ち上がった後瞳が小さく揺れ動く。
「……」
こんなに優しくて、温かくて、甘い後味のする珈琲があるとしたら……
僕は毎日でも飲んでみたいな、なんて思ってしまっていた。
end
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