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第77話
「……怜司?」
「すっげぇ心配したんだぞ! おまえ全然目を覚まさないし、顔色も悪かったからやりすぎたって思ってさ」
目尻に涙を浮かべた怜司は、小さく震えながら布団で隠されている、僕の体に縋りついた。
「怜司が僕のことを感じさせまくったせいだよ。確かにやりすぎた感はあったかもね」
言いながら、大きな背中を撫で擦ってやる。手のひらに伝わってくるぬくもりは、夢の中では味わえなかったハッキリとしたあたたかさで、怜司が生きている証拠を感じ取った。
「悪かった。だけどこうでもしないと、龍が立ち直れないと思ったんだ」
「夢の中で逢った浩司兄ちゃんも、同じことを言ってた。怜司をよろしく頼むって」
「兄貴が?」
真っ赤な目で僕を見る怜司に、ほほ笑んで頷いた。
「……兄貴怒ってなかった? 俺が龍のことを抱いて、さ」
「ううん。そうしなきゃ引きこもった僕が、前に進むことができないって言われたからね。怜司のことを許してた」
「そうか、それならよかった」
「あのね、怜司!」
顔を上げている怜司に向かって、思いっきりキョどった僕が声をかけた。
「どうした?」
「えっとそのあの……うまく言えないんだけどね。最初からはじめたいなって」
「最初?」
言葉足らずの僕のセリフが不思議だったのだろう。怜司は何度も目を瞬かせて、小首を傾げる。
「だって僕らはいろんな要因が重なって、体からはじまっちゃったでしょ?」
「そうだな。体の相性はバッチリなのがわかったけどさ」
「そうなんだけどね。それはどっかに置いておいて、僕は最初からはじめたいんだ。怜司にきちんと向き合って、いいところをたくさん見つけて、好きになっていく、みたいな感じ……」
理由を告げていくとなんだか恥ずかしくなり、布団を鼻の上まで引き上げた。
「兄貴よりも好きにならせる自信、俺にはあるけど覚悟はできてるのかよ?」
堂々と宣言した怜司が、僕の額にキスを落とす。それがやけにくすぐったくて顔を動かしたら、大きな手が僕の頬を包み込んだ。
「俺は龍が好き。絶対に俺を好きにさせてやる。兄貴よりも夢中にさせるから、俺だけを見て」
熱情を込めて注がれる視線から、目が離せなかった。未だに僕の心の中を占めているのは浩司兄ちゃんで、怜司がそこに入る隙間はほとんどない。きっとそのことを、怜司だってわかってるはず。
これまでずっと一緒に過ごした、幼馴染だからなおさら――。
「怜司のこと見てあげる。僕を夢中にさせるなにかを、探してあげるね」
体からはじまった恋は、どこで実を結ぶのか。亡くなった浩司兄ちゃんとの思い出よりも、怜司はすっごく頑張らないといけないだろう。
その頑張りを僕がきちんと受け止めて、恋に変換したとき、きっと僕らは正真正銘の恋人になれる。天国から仲のいいその姿を見ていてくださいね、浩司兄ちゃん!
おしまい
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