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第25話 放課後

僕は美術部の教室でキャンバスに向かって筆を走らせていた。 美術部の部室は、僕と女子生徒数名が静かに座って、それぞれの時間を刻んでいる。 僕の筆は、なかなか動かない。 迷っては描いて、違うと塗り潰す繰り返し。 「はぁぁ…っ」 小さな溜め息が漏れた。 僕の頭は常に海里おじさんの事ばかり。 どうしたらいいんだろう…。 「倉科君。私達そろそろ帰るけど、どうする?」 ぼんやりしていた僕に女子部員が声を掛けてくる。 慌てて時計を確かめると、六時半を回っていた。 「あっ、僕も帰るよ」 僕らは片付けを行うと、急ぎ足で門を潜った。 すっかり遅くなったなぁと思いながら歩く僕の耳に馴染みのいい声が入ってきた。 「結斗…!」 その時、名前を呼ばれた。 この声は顔を見なくても分かる。 「だ、誰?」 「ちょっと、カッコよくない!?」 回りに居た女子が黄色い声を上げた。 カッコいいに決まってる。 だって、女子にも人気のある翔の父親なんだから。 整えられた髪の毛に、オーダーメイド仕立てのいいスーツがとても似合っている。 大人の色気を醸し出していて、心臓に悪い。 「結斗。お疲れ様。丁度近くに来たから寄ってみたら…偶然だね」 おじさんが僕の側まで来て、そう言いながら微笑む。 笑顔が回りへも向けられ、彼女達が声にならない悲鳴を上げている。 そんな女子のソワソワした空気が僕へも伝染したようだ。 「おっ、おじさん!」 落ち着かなくなった僕は、おじさんに声を掛けた。 すると、おじさんは益々顔を綻ばせた。 普段見慣れているはずの僕でさえ赤面してしまう。 これって、体を重ねた後遺症なんだろうか? 「結斗、さぁ車に乗って。帰るよ」 そう言うと、おじさんは僕の背中へと手を添えてくる。 「あ、また明日ッ…!」 慌てて皆に挨拶を済ませると、おじさんの乗ってきた黒の高級車へと乗り込んだ。 皆が興味津々で車を見送っているのが、サイドミラーで確認出来た。 皆からは、どういう風に見られたんだろう?

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