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第27話

今までこんな事はなかった。 誰かに流される事なんてなかった。 人と深く関わる事をしてこなかったわけだから当然だ。 友達は沢山居る。 でも、俺はどこか冷めていた。 一定の距離を保ちながら生きてきた。 俺のそんな気持ちに気づいているのかいないのか、颯斗は例外として、俺の奥に踏み込んでくるヤツは居なかった。 でも、八神は違う。 人の中にズカズカ入り込んでくる。 今思えば初めからそうだ。 ノックも無しに土足で俺の中に入り込んだ。 そして、そのまま居着いた。 追い出そうとしても出て行く気配もない。 それどころか、その存在感を増している気がする。 毎日電話攻めしてくると思えば、それが突然途絶えて、また姿を現したかと思えば、今のこの状況だ。 なにを考えているのかさっぱり分からない。 八神は俺を抱きたいと言う。 俺は身体にこもったままの熱を解放したいと思っている。 お互いに求めている事は同じだ。 拒否る理由はない。 でも、突っ込まれるのはシャクだ。 シャクだけどこうなったからには仕方ない。 「好きにしろ。…ただ、これはお前の為じゃない。だから、勘違いするな。」 八神の為に許すわけじゃない。 俺の欲望を満たす為に許す。 「無理だと言っても止めてあげられないよ。」 「…男に、二言はない。」 俺は、それを証明するように着ていたロンTを脱いだ。 八神の視線が肌に突き刺さる。 そして、その視線はある一点で止まった。 「…蹴人、この痕はどうしたのだい?」 指先が、俺の鎖骨下辺りに触れた。 多分、颯斗が付けたあのキスマークの事を言っているんだと思う。 「お前には関係ないだろ。」 「俺が残した痕ではないね。あの日の痕は、既に消えている筈…。それに、俺はこのような場所に痕を残した覚えはないのだけれど?」 「黙れ。お前には関係ないと言ってるだろ。」 そう言って八神を見ると、さっきまでとは違う冷たい目とぶつかった。 まるで、俺が悪いみたいな気分になる。 なんのつもりだか知らないが、とやかく言われたくない。 たった一度セックスしただけのヤツにそんな事を言われたくない。 身体だけだと割り切った関係のヤツがほとんどだが、たまに一度セックスしただけで恋人面してくるヤツが居る。 どうやら八神はそのタイプらしい。 正直、迷惑かつ面倒くさい… 「そうだね、確かに俺には関係ないのない事だ。…けれど、許せないな…」 八神が痕に爪を立てて、引っ掻いた。 「…ッ痛…」 「…ねぇ、蹴人。この間、俺が痕を付けた場所を覚えているかい?」 「いちいち覚えてるわけないだろ。正直、お前があんなもの残したおかげでこっちはどれだけ迷惑だったか…」 「俺はね、全て覚えているよ。俺が君にした事も、君が俺にした事も全て…。君に電話をかけた回数や、君の身体に残した痕の場所も…」 「…怖い事言うなッ!」 「また付けてあげるよ。…君は、もう忘れてしまったようだからね…」 「…んンッ…」 八神が胸元に顔を埋めて、そこに舌が這った。

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