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第8話

真翔は既に、かつての恋人の面影を凛に求めてはいない。 鋭い目つきで冷たく拒絶する凛を。 しかし、本当は寂しがりで怖がりな凛を。 たった数時間。たった数回言葉を交わしただけなのに。 死という運命を共有しているせいか──とても愛おしく感じる。 もしこの状態で発見されたとしたら、悲恋が生んだ心中だと報道されるのだろうか。 恋人でも何でもない。 素性も何も知らない。 ただ、一緒に死ぬだけの相手…… 「……ぁ、…あぁ…ん、…」 甘く漏れる、か細い嬌声。 真翔の全てを飲み込み、離したくないと縋りつく。 それは本能からか。それとも── 焦点の合わなくなった凛の瞳光が、静かに揺れ……重たそうにゆっくりと、瞼が閉じる。 「……もぅ、…限界……」 荒い息を漏らしながら、気怠そうに凛の唇が微かに動く。 そんな凛の濡れた前髪を、痺れる指でそっと剥がす。 「……俺も、だ……」 「まさ、と…」 凛の瞼が、ゆっくり半分程持ち上がる。 胸と胸を合わせ、凛の綺麗な瞳を間近に捕らえる。 苦しいのだろう…… 僅かに開かれたその柔らかい唇を、愛おしむように優しく塞ぐ。 恋人と別れてから……ずっと暗闇の中を彷徨っていた。 たまに差し込まれる小さな喜びの光は、真翔の足元を微かに照らすだけで……すぐに儚く消えていく。 もし、未来を明るく照らす眩い光があるとしたら…… それは……今、なのだろうか……? ……はぁ、はぁ、はぁ 真翔の身体から、心地よく力が抜けていく。 頭が痺れ。手足も痺れ。 ただ、繋がった所だけが……熱く漲る。 真翔の背中から、力無く凛の手が滑り落ちる。 その手のひらを握り、指を絡める。 腰を打ち付ける度、上下に揺れる凛が……掠れた声を僅かに漏らす。 「………逝、く…」 「……逝こう、一緒に……」 ドォーン! 闇夜を切り裂き、音を鳴らして上がる眩い光が、瞬きする速さで開花し……闇夜に美しい火花を散らす。 凛の指に絡む、真翔の指先。 それが僅かにぴくり、と痙攣する。 ……解っていた。 死が(もたら)したこの閃光もまた、夢幻…… 一緒に生きよう、というのは 野暮、というものである。 激しい音と燃えさかる炎を放った美しい花火は、ちりちりと儚く消え── 闇夜にまた、静寂が戻る。 そして、終わりを告げる音のない閃光が数回── 闇を眩しく照らし 静かに 消えた † end †

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