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第1話
「母さん。じゃあ僕いってくるね」
粗末な家に鈴を転がしたような快活な声が響く。
それは高くもなくて低くもない、とても耳触りのいい花の音のようだ。
「気をつけてねジュリオ。あなたはそそっかしいから、母さん心配だわ」
つぎに響くのは優しい女性の声。ドアのまえに立つ少年、ジュリオ・ビアッティが母親の声だ。
「もう心配性だなあ、母さんは。城までの道のりなんて何度も歩いたことあるし、充分にまわりを見て向かうから大丈夫」
「でも最近は貴族の馬車が多く走っているし、このまえだって馬車を横切ろうとした男の子が貴族の怒りを買って切り捨てられたのよ」
心配は無用だと朗らかに笑うジュリオ。けれども母親が危惧するのも無理はなかった。
話に上がった通り、これまで見かけなかった貴族の馬車が往来を走るようになり、幼い子供が犠牲になるという事件が多発している。死角から飛び出しはねられてしまったり、貴族の気分を害したという理由で命を奪われたり。
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