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路地裏のオメガバース
身体に打ち付ける雨が服や肌をしとどに濡らしていく。
雨降り独特の匂いは彼が放つ強烈な匂いを掻き消すどころか更に引き立てるようだ。
頭がクラクラする。
発情期特有の気怠さと疼きには慣れているはずなのに、今日の昂りはいつものそれとは全く違った。
血液は沸騰したように煮え滾り、全身が火達磨になったかのように熱い。
肌にあたる雨の冷たさも感じないほどだ。
「…緋彦 さん」
千雨 は自分より頭一つ大きいその身体に身を寄せると、もて余した熱を訴えるように溜め息を吐いた。
大通りから一歩入ったこの路地裏は古いスナック街の裏手にあたる。
客は疎らな場所だが、店の従業員がいつ出てきてもおかしくない。
そんな危うい場所で、冷たいコンクリートの壁と逞しい男の胸板に挟まれたこんな状況は、端から見たら異様な光景だろう。
いや、きっとふしだらだと思われるに違いない。
しかし、一度火がついてしまった肉体の疼きは理性で止められるようなものではなかった。
きっと、互いに熱を吐き出さなければこの疼きを静める事はできない。
少なくとも千雨の本能はそう言っているのだ。
「千雨…」
彼は低く呟くと千雨のシャツを引き裂いた。
その乱暴な手つきと僅かに上擦った声に緋彦のいつもの鷹揚さが薄れているのがわかる。
嬉しい。
いつも飄々としているα の彼が独占欲を剥き出しにして野獣のような眼差しを向けている。
千雨は得体の知れない高揚感と興奮に包まれてうっそりと微笑んだ。
差し出すように首筋を露にすると、緋彦の形のいい口唇が引き寄せられるようにして千雨の滑らかな肌に吸い付いた。
薄い皮膚の表面をねっとりと舐めあげられるとたまらなくなり、唇から溜め息が漏れる。
胸いっぱいに広がる緋彦の匂いを感じると、今からこの男に自分の全てが支配されるという悦びに全身が総毛立ち、下腹部が途方もなく疼いた。
緋彦の柔かな髪に指を絡めると、千雨もまたその逞しい男の首筋に吸い付いた。
いつもなら理性が邪魔をしてこんな風に大胆に振る舞う事ができない千雨だが、今日は理性一つ操る事さえできない。
身体が、心が緋彦を求めて止まないのだ。
積極的な千雨に煽られたのか、緋彦の手が大胆に千雨の股間をまさぐりだした。
「あ…っ、あ…」
既に形を変え、張りつめたそこは緋彦の長い指を感じて更に硬度を増していく。
チノパンの中に忍び込んできた緋彦の熱い手に直接包みこまれると、それだけで達してしまいそうになった。
「あ…っ緋彦さ…んんっ…」
敏感な首筋と性器を一度に攻められ、千雨の口唇から嬌声が漏れる。
もはや雨なのか千雨の愛液かわからないほど屹立は濡れそぼり、緋彦の手淫をスムーズにしている。
卑猥な水音と雨の音、緋彦と千雨の荒い息がますます千雨を駆り立てた。
「あ…んっ、緋彦さ…イくッ…イっちゃ…あぁぁぁぁっっ!!」
剥き出しの粘膜の先端をくじられ、首筋に歯をたてられると、千雨はあたりはばからぬ喘ぎ声をあげながら緋彦の手に精を吐き出していた。
達している最中にも関わらず緋彦の手は千雨の精路から最後の一滴までも絞りとるように扱いてくる。
「…だめっ、あぁぁっ、また…イっちゃうぅっ!」
容赦のない緋彦の手管に千雨は涕泣を漏らしながら腰を振り立てた。
「…あぁ千雨、何てかわいいんだ」
緋彦の恍惚とした声に胸が高鳴る。
千雨の痴態で彼が興奮してくれている事が嬉しくてたまらない。
緋彦は千雨の吐き出した精液を指に絡ませると、その指を千雨の後孔にしのばせてきた。
グチュ…と濡れた音をたてて緋彦のしなやかな指が千雨の内側を穿ってくる。
「凄いじゃないか千雨。いつもよりすごく濡れてるぞ」
緋彦はそう言いながら、千雨の後孔を大胆に掻き回してきた。
緋彦の言う通り、千雨のそこはいつも以上にしっとりと濡れて愛液を溢れさせている。
それは中を穿つ緋彦の指を伝い、先程吐き出した白濁と混ざり酷く淫らな音をたてていた。
千雨の、いやこれがΩ としての本能なのだろう。媚肉が無意識に緋彦の指を締めつけ彼を欲して収縮を繰り返す。
欲しくてたまらない。
指よりも太くて熱くて硬いもので千雨の最奥にひっそりと潜む未だ未開の場所に、緋彦のそれをぶちまけてほしい。
「挿れるぞ」
緋彦の掠れた声がサーサーと降る雨の音と混ざり路地裏の片隅に響く。
千雨が小さく頷くと、緋彦は柔らかく笑った。
千雨を反転させ、壁に押し付けると早急な手つきで下肢を曝し双丘を押し開く。
ひくつく後孔に緋彦の剛直があてがわれると、千雨はうっとりとしながら小さな口唇を何度も舐めて濡らした。
ぐっ…と圧力がかけられ肉を掻き分けて入ってきた緋彦の剛直の凄絶な熱さに、千雨の瞳が大きく見開かれた。
「~~~っくぅあぁぁぁっ…!!」
狭い窄りをこれでもかというほど拡げられ、熟れた粘膜を擦られた瞬間千雨の屹立から白濁が噴き上がる。
彼とは今まで幾度も身体を重ねてきたが、挿入と同時に達してしまったのは初めてだった。
「千雨…挿れただけでイったのか?」
背後から熱っぽく問われるが、千雨は絶頂の極みを受け止めるのに必死だった。
快楽の芯が何度もひきつり、高みから降りてこられない。
これが…番とする本能のままのセックス…
千雨は凄まじい快楽の中、恍惚とした表情で宙を仰いでいた。
理性や常識なんかどうでもいい、ただひたすら奥が濡れてそこに緋彦の熱い迸りを受け止めたくてたまらない。
千雨はゆっくりと振り向くと、細腰を掴む緋彦の手に自分の手を重ねた。
「…噛んで…緋彦さん」
緋彦の切れ長の眼が瞠目して見開くと、次に眉根が寄せられ険しい表情になった。
「千雨っ…」
上擦った声で名前を呼ばれた瞬間、乱暴な手つきで襟足を掻き分けられうなじに思いきり歯をたてられていた。
薄い皮膚にぴりりとした鋭い痛みを感じ、千雨は小さく呻く。
所有の痕を深く刻まれ、千雨の内側で何かとてつもない熱が爆発した。
「いっ…あんんっ…緋彦さ…もっと、もっと強くっ…んんっ!!」
千雨の要望に答えるように、緋彦の歯が皮膚を裂いて噛み痕を残していく。
雨の匂いに混じる血の匂いと緋彦の放つ強烈なアルファの匂い。
全てが千雨を狂わせ、淫蕩なものに変えていく。
下腹部の律動も加わり、千雨は肉体全身で緋彦の全てを受け止めるはめになった。
緋彦はがくがくと腰を揺すりながら、千雨の泣きどころを容赦なく抉ってくる。
「あぁぁぁっ…いいっ…きもちいいっ……」
緋彦を煽るように淫らな言葉を口にしながら快感に悶えた。
いつもなら決して口にしない言葉だが、今日の気持ちの昂りはどうしても押し隠せるようなものではなかった。
「千雨…好きだ、好きだ…ここに俺のを出してもっ…いいか?」
緋彦も同じ気持ちなのか掠れた声が鼓膜に拡がる。
それは甘美な悦びとなって千雨の胸をいっぱいにした。
幸せ。
これを幸せと呼ばずに何だというんだ。
「はっ…あっ…出して、緋彦さんのいっぱい…」
千雨が振り向くと、その口唇に噛みつくようなくちづけが降ってきた。
上も下も緋彦に塞がれて、彼のものであるという充足感に血管の中まで満たされたような気持ちになる。
千雨のオメガとしての本能が番であるアルファの緋彦をもっと深い場所に誘うように蠢いた。
媚肉を掻き回され、緋彦の熱い剛直が千雨の内側でビクビクと脈打つ。
「千雨…っ…出すよ?」
緋彦のマグマのような昂りが最奥に捩じ込まれる。
息を吐く間もなく再びうなじを強く噛まれた千雨は声にならない悲鳴をあげながらその未開の場所で熱い飛沫を受け止めた。
「~~~ふっあぁぁぁっん…あぁぁぁっ!!!」
雨が強くなっても二人はまるで獣のように絡んでいた。
緋彦と番である事への悦びと、緋彦の放つもので千雨の肉体は渇く間もなく濡らされ続けるのだった。
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