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お題/使用人な王子さま
~ アルベルト × 啓一郎 ~
パパとママをなんとか説得して、来週から日本に行ける事になった。
日本に行くのは久しぶりで今からわくわくが止まらない。
でも、なによりも大好きな総兄さまに会えるのが一番楽しみ。
僕も総兄さまと同じように日本の大学に通おうと思ってる。
それで、まずは法律のお勉強をするつもり。
法律のお勉強は会社を継いでからも役に立つし、知っておいて損はないと思うから。
会社には専属の弁護士さんが居るけど、信用できないってパパが言ってたし、総兄さまも大学で法律のお勉強を頑張ってたから、僕の選択は間違ってない筈。
だから僕は総兄さまが卒業した大学に入学するつもり。
総兄さまは、優しくて、カッコ良くて、お勉強も出来て、本当にお手本みたいな人…
だから、前に日本に来た時総兄さまが働いてるのを見て、僕もこうなりたいって思ったんだ。
総兄さまが退いたら僕があの会社を継ぐんだと思う。
だからその日まで僕は沢山お勉強をしないとダメ。
きっと総兄さまは前に会った時よりもっと成長してる筈だから。
総兄さまは僕の身長が少しだけ大きくなったのに気づいてくれるかな?
まだワガママ言っちゃったり、ひとりぼっちで寝れなかったりするけど、でもちょっとずつ成長してるのに気づいてくれるかな?
パパはガードの人をつけるって言ってたけど、日本は犯罪が多くないし、総兄さまが居るしいらないって言っておいた。
なるべくなら自由がいいし、アルと二人きりでゆっくりしたかったし。
「アル、アルッ!」
「啓一郎様、そんなに喚かなくても聞こえている。」
「アル、僕は来週から日本に行くから準備しておいてね。あと、アルも自分の準備をちゃんとしておくんだよ?」
「啓一郎様、あんたはいつも唐突だ。思い立ったら即行動するのは良い事だが、振り回される俺の身にもなってもらいたい。」
僕の専属の使用人、アルベルト・クラインハインツ。
こっちの名前は長くって、覚えるのが大変だから昔っから僕はアルって呼んでる。
少し口は悪いけど、色々気がついてくれるし、なんだかんだで優しくしてくれるし、カッコ良いし…
出会った時から、ずっと大好き。
アルの家系は代々ママのおウチに仕えてるって聞いた。
アルと初めて会ったのは、僕がまだ小さかった頃。
ばぁばのお誕生日をお祝いで日本からママとこっちに来た時…
その時、アルが僕の前に跪いて、手をとって、指にキスした時にアルがほんとに王子さまに見えたんだ。
ママに読んでもらった事がある絵本で見たみたいな、そんな王子さま…
それが、僕が初恋をした瞬間。
運命だって思った。
次にアルに会った時に、アルと話ができるようにロシア語を必死で練習したのを今でもよく覚えてる。
でも、アルも日本語をお勉強してくれてたみたいで、結局日本語で会話してるんだけど…
「アル、生意気ッ!」
「あんたは口ばかり達者だ。少しは頭も成長したらどうだ。」
アルにまた溜息つかれちゃった…
僕は最近、アルに呆れられてばっかり…
自分でも分かってる。
僕は子どもっぽいし、いい子じゃないし…
だから、大人なアルには釣り合わない…
このままだと、僕はアルに嫌われちゃうかもしれない…
でも、意地悪言ってくるアルだって悪いんだもん。
僕はボフンッとベッドに飛び込んで、枕に顔を埋めて拗ねてるアピールをして見せた。
総兄さまに会いたいのもあるけど、ほんとはアルと二人で日本を観光したかった…
アルに僕の生まれた国を見せてあげたい。
もっともっとアルに僕を知ってほしい。
「啓一郎様、あんたいい加減その子どもみたいな振る舞いは止めてくれ…」
「嫌だ。啓一郎って呼んでくれなきゃ嫌。」
僕はアルに啓一郎様だなんて呼んでほしくない…
啓一郎って呼んでほしい…
「まったく、主人に様をつけない使用人が何処にいるんだ。あんたがそんなだと俺が旦那様や総一郎様に叱られる…」
「ご主人さまにタメ口な使用人だって居ないもん。」
「…」
アルにとって僕はただのご主人さまなんだって思い知らされる。
僕はアルを使用人だなんて思いたくない…
日本に帰ってもアルをずっと忘れられなくて、ばぁばが体調を崩してこっちで暮らす事になった時はばぁばには悪いけどほんとに嬉しかった。
ずっとアルと一緒に居たくて、僕に仕えるのはアルじゃなきゃ嫌だってパパとママにワガママを言った。
ずっとアルと一緒に居る筈なのに淋しいのは、アルにとって僕は仕事の一部だから…
「…アル…眠い…バスルームに連れていって…」
アルに手を伸ばすと、アルが僕を抱き上げて、バスルームまで連れてっいってくれた。
アルに着替えを手伝わせた。
アルに触ってほしいから…
沢山甘やかしてほしいから…
アルにとって、僕のお願いは絶対…
こうして自分の立場を利用する度に僕は淋しい気持ちになる…
ベッドルームに戻って、アルが僕をベッドの上に優しく降ろしてくれた。
「ねぇ、アル…いつものして…」
アルがベッドの端に座って僕の髪を撫でた。
僕は気持ちよくて、ゆっくり目を閉じた。
「…啓一郎様、俺は日本には行かない。」
「え?…なんで、ねぇアル、なんでッ!」
頭を撫でながらアルがわけ分からない事を言った。
僕は勢いよく起き上がってアルを見た。
「旦那様の出張にお付き合いする事になっている。だから言ったろう、あんたはいつも唐突だと…」
「一緒に来てくれないなんて思わないのは当たり前でしょ?だってアルは僕の…」
アルは僕の使用人…
そう言おうとしたけど、言えなかった…
だって、アルは…
アルは僕の大好きな王子様だから…
「啓一郎様、確かにあんたは俺の主人だ。あんたの側に…いや、啓一郎様専属の使用人だという事を誇らしく思っている。…けれど、俺の雇い主は旦那様だ。例え主人であるあんたの命令でも旦那様の命令が優先される。だから、俺はあんたと日本へ行く事はできない。」
「じゃぁどうしたら、どうしたらアルは僕だけのアルになるのッ!!」
「啓一郎様?…」
大きな声を張り上げる僕を見て、アルは驚いたみたいな顔をした。
僕の気持ち、アルにバレちゃったかもしれない…
顔が熱くて、恥ずかしい…
「あ…えと…ごめんね、なんでもないよ…。今日は…一人で寝るから、アルは下がっていいよ…」
何度目になるかわからないくらい聞いたアルの溜息…
今日聞いた溜息で一番大きくて深い溜息…
「…まったく、何言っているんだあんたは。一人でなんて、寝れないだろ?…」
「…そ、そんな事ないもん!一人で寝れるもん!」
「いや、寝られるわけがない。あんたは一人でなんて眠れない。…眠られなくて当然だ。」
「アル?…」
「俺があんたをそういう風に仕込んだ。何年かけたと思っているんだ。そう簡単に一人で寝られるようになってたまるか。啓一郎様が俺だけを求めるように甘やかしに甘やかして仕込んできたのに…冗談じゃない。」
「し、仕込むって…アル、どうゆうこと?…」
アルが何を言ってるか分かんない。
今日のアルは僕が知らない顔をしてる…
怖いのに…
怖い筈なのにドキドキする…
「どうやら俺は、マニュアル通りにやりすぎたらしい。あんたが元々相当な甘えん坊だって事を忘れていた…」
「アル?…何言ってるの?…」
「総一郎様や旦那様にまでデレデレと甘えて…。そんなあんたを見ていると気が狂いそうになる…」
「…」
アルは、総兄さまが僕を甘やかすのが好きじゃない。
だってアルは…
総兄さまが好きだから…
「例え家族であっても…許さない…」
アルが僕のベッドに上ってきた。
今までアルは、ベッド端に座る事はあっても上がってきたりするなんて事はなかった。
「アルッ…ダ、ダメ…上ってきちゃ、ダメ…」
「じゃぁ、下りてほしいのか?」
アルの顔が意地悪だ。
「…ッ…や、やだ…下りたら、嫌…行かないで、アル…」
「…ッ…啓一郎様、どうか、俺の理性があるうちに眠ってくれ…」
「添い寝…して?…アルにね、添い寝…してほしいの。アルじゃなきゃ、嫌…。ね、アル…して?…」
「あんた、わざとやってんのか?だとしたら、タチが悪い…」
「あとね、腕枕も…して?…」
「添い寝でも腕枕でもなんでもする。だからその "してして" 言うのは止めてくれ…」
アルが僕の隣に横になって、腕枕をしてくれる。
撫でてくれる手が気持ちいい…
アルにスリスリ甘えて、その日はそのまま眠った。
それから何日か経って、あの日のアルの言葉が分からないまま日本に行く日になった。
アルの腕枕の気持ちよさを知っちゃった僕は、日本でちゃんと寝れるか不安になった。
いざとなったら総兄さまにしてもらおうと思ったけど、アルに腕枕はアルだけって約束させられちゃったから無理…
「アル、行ってくるね?…えーと…約束はね、ちゃんと守るよ。」
「当たり前だ。」
「アルは総兄さまが好きなんだよね。…だから、僕が総兄さまに甘えるのが嫌なんだよね?」
「何を言っているんだ、あんたは。なぜそうなる…」
出発の日なのに…
暫く会えないのに…
そんな日にも僕はアルに溜息をつかせてる。
「だって、いっつもアルは総兄さまの話するし、総兄さまに会うと総兄さまばっかり見てるし…」
「それは、総一郎様がベタベタとあんたに触れるからであって、決して好意があるわけではない。」
「…え、そうなの?…僕はずっと、アルは総兄さまが好きなんだと思ってた…」
「それは勘違いだ。勘違いにも限度がある。」
「そっか、そうなんだ…良かった…」
少し安心した…
アルが総兄さまを好きじゃなくてよかった…
僕は、それを許せる程大人じゃないから。
「啓一郎様…あんたが日本から戻ったら話がある。その時は、聞いてもらえるか?」
「うん。あのね、僕もアルに話があるの…戻ったらちゃんと話すね?だから、アルの話も聞かせてね?」
アルが僕の前に跪いて、手を取って…
「どうか…ご武運を…」
指にキスをした。
-end-
二章から登場した総一郎さんの弟、啓一郎くんのお話。
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