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楽しい旅だったね
最終日、今日は大熊先輩もちゃんと部屋で寝てる。
つうかゆうべは小谷先輩がメインになって、先輩たちよってたかって酔い潰したからね。きっと今日、二日酔いだよ。
朝メシ食ってから、みんなでうだうだしてたら兄さんがニコニコやって来て、
「申し訳なかったね、うちの女将 さんが迷惑かけたみたいで」
なんつって姉崎と大田原先輩を引き連れ、ガソリン満タンにしてくれた。スゲエ好待遇じゃね?
「ただ内密に願いたいんだ。あれは病気みたいなもので」
あ~、ガソリン入れたげるから内緒にしてって、そゆことね? なんて納得してたら「何のことでしょうか」と庄山先輩がとぼけた笑顔で言った。
「うちの節操ナシがご迷惑をおかけしたのだと思っておりましたが」
こういうとき、マジでおっさんくさいなこのヒト。そんでお兄さんもとぼけた笑顔で「ありがたい」なんつって。
「それより色々と気を回して頂いて、ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ格安で作業してもらいましたから。あそこまでして頂けるなんて思ってませんでしたから、当然ですよ」
なんだこの会話。ここだけ大人な世界になってるし。
ンで、みんなそれぞれお礼して握手を交わす。
「毎食、刺身とかごちそう出してもらって、めちゃくちゃうまかったです」
「すごく旨かった! それにつまみとかも、全部ありがとうございました」
大熊先輩がヘラッと「楽しかったです」なんて言ったんで、ある意味すげえなこの人、とか思いつつ俺らもご挨拶。「お世話になりました」くらいしか言えないけど。
お母さんはちょっと用事があって出かけてるってコトで、厨房にもご挨拶しよう! つってみんなで行った。
厨房のおばちゃんは「またおいで」とか言ってくれて、「おいしそうにいっぱい食べてくれて嬉しかったよ」なんてさ、俺ちょっとウルッと来た。
なんだかんだ楽しかったなあ、とか思いつつ乗車。
今回は二日酔いの頭抱えた大熊先輩が皆様に奉仕することになってて、いろいろ聞きたいから、と鈴木もハイエースに乗り、大田原先輩が「岡部がいると和む」と主張して助手席に望んだので、俺と丹生田は、尾形先輩の待つ姉崎の車に乗ることになった。ラッキー! とかっていそいそ助手席に乗り込む。
丹生田は助手席にしたくなかったし、尾方副会長はもちろん後部座席に座ってもらわなくちゃだし。
尾方先輩はいつも通りののぼーっとした平和な感じのニコニコ顔だったけど、車が走り始めるとすぐ寝ちゃった。ゆうべけっこう飲んでたしな。
「来る時は、ずっとしゃべってたんだけどね~」
陽気な姉崎も、機嫌良さそうに笑ってる。
そこで考えた。
運転してる姉崎は安全だ。なぜって手がふさがってるし、こいつ車めちゃ大事にしてるから。
そんで今、この車には、実質俺と姉﨑と丹生田しかいない。ならチャンスなんじゃね? もう言っちまえ! つう勢いで
「おまえ、なにやったの?」
出た声には自然に険が乗っちまってる。もともと俺って短気なんだよ。だいぶ成長したけどさ。
「なんのこと?」
「とぼけんなよ。大熊先輩だよ」
だってずっとモヤモヤしてたんだもんよ!
海でコイツと大熊先輩がニヤニヤしながら話し込んでたこと。そのあと挙動不審だったこと。大熊先輩がいないとき、そらっとぼけてやがったこと。山に行く前、二人がこそこそ話してたという大田原先輩の証言。
なにがあったのか、コイツがなにしたのか、なんとなく分かったけど、こんなチャンスめったにねーし、コイツやり込めたい!
「なぁ~んのことかな?」
いつも通りヘラッと笑って誤魔化そうとしてるけど……
「なんであの朝だけ、自分で小谷先輩起こしたんだよ」
コイツ、それまで先輩を起こして文句言われるのを明らか避 けてた。だから俺らに起こすよう仕向けて、とっととどっか出かけて、みんな起きた頃に顔出して―――
なのにあの朝は自分で起こして、くそマジな顔でカナダの山だのグリズリーだの、考えたらめっちゃ不自然な話までして。
しかもコイツ、笑ってなかったんだ。たいてい笑ってるくせに、あのときなんであんなマジ顔してた? 誰かが泣こうが怪我しようが、コイツってヘラヘラしてんだろいつもは!
「バレバレだっての! おまえが仕組んだんだろ!!」
「やだなあ、藤枝もしかして酒とか飲んだ? からみ酒って最悪だよね~」
朗らか、と言いたくなるほどの声で言ってるけど、指先がハンドルをトントン叩いてる。
顔はいつものいけすかない笑顔。けど、もしかして、ちょい焦ってる?
うっわー! なんか楽しくなってきた!
「なんなんだよおまえ、いつもいつも!」
「藤枝、ほうっておけ」
後ろから丹生田が淡々と言った。
「でも!」
「疲れるだけだ」
そう言って俺のアタマにガシッと手を乗せ、ワシャッと髪を乱す。
「こいつが吐くわけが無いだろう。後が面倒だぞ」
そんだけで俺ってば簡単に気が削がれちまう。でもなんか面白くねーから、ぶぅ~~とか唇震わせて音出した。
「ははっ!」
姉崎が愉快そうに笑って、チラッと俺を見る。くそっ! いつもの顔だ!
「楽しい旅路になりそうだねえ」
まあしゃーない。丹生田がいやがることするつもりはねーよ。
俺は横目で運転する姉崎を見て、ため息をつきながら(ま、いいか)と考える。
(丹生田と同じ車だし、隣に座ってないけど来る時よりずっと環境良いし。楽しくなりそう、……かも!)
そうだよ、楽しい面を見よう! 丹生田がいて、アタマわしゃっとかしてくれて、俺を優しい細めた目で見てるンだぜっ!? 楽しまねえと損じゃん!
「だな!」
おもっくそ大声で言うと、姉崎はビックリしたみたいにチラッと俺を見た。お、とか思って「へへ」と笑ってやる。
もう一度チラッと見て、すぐ前方に目を戻した姉﨑は、運転しながらちょい眉寄せた。
おお笑ってねーし! なんとなく勝った感じがしてテンション上がる。
「なあ! 次のパーキングどこ?」
「え? ああ、フェリー乗り場だと思うけど」
こっちを見もせずに、淡々と言う姉﨑ってのは、けっこう珍しい。いつだってヒトのこと小馬鹿にしたように笑ってるコイツが、ちょい不機嫌な感じなの、かなり気分良い!
「じゃあおみやげ買わなきゃだな! 北海道みやげ!」
でっかい声で言ったら、姉崎が眉寄せて黙った。
うーわ、笑ってないってだけで、めっちゃ楽しくなってくる。勝った感じで!
「そうだな。誰に買うか、リスト作るか」
「だな! 飯代かかんなかったし、金余ってるもんな~」
そうなのだ。なんだかんだ、金かかるときも先輩たちがおごってくれて、俺ら二人で出かけたときしか金使ってねーのだ。
となりで姉崎のため息が聞こえた。見たら横顔はちょい不満げ。
(おお! めっちゃテンション上がるし!!)
そうして帰路は、姉﨑をからかったりしながら、と~っても楽しい時間を過ごせたのだった。
END
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