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ガチャガチャと大げさに鍵を鳴らして扉を閉めた
万が一にもユウが出てくることがないように何度も何度も施錠できているか確認する
”ここから絶対に出してなんかやらない”
それはミツルの強い思いからだった
扉の向こうからは叩く音はおろか泣き声すら聞こえなくて不自然なほど静かだった
ミツルは扉を背に寄りかかると自分の手の平を見つめる
小刻みに震える手は殴ったときのユウの血がべったりと付いていた
「あは...は..」
無意識に力なく笑い、そのままズルズルと床に座り込んで頭を垂れた
膝を抱えるようにしてまだ息の荒い自分を落ち着ける
「先生...」
思わずつぶやきながら膝に顔をうずめる
だから言ったじゃん
ダメだって...先生がいないとダメなんだって
「どうしよう...」
先生がくれた最後のチャンスを棒に振って信用を裏切ってしまった
早く連絡しないと...先生に戻ってきてもらわないと
そう思うのに体が動かない
だって戻ってきたら先生はユウを連れて行ってしまう
きっと二度と会わせてもらえなくなる
だって自分は最後のチャンスを無駄にしてしまったのだから
「嫌だ...」
思わず顔を上げて呟いたミツルの目は見開いていた
そんなの絶対嫌だ...いやだいやだいやだいやだ
先生が戻ってきたらユウの心まで連れていってしまう
無意識にギリギリと自分の腕を掴んで爪を立てる
ザワザワと胸が騒いでうるさい
執拗に指の力を強めて腕には血が滲んでいた
"せんせ..."
自分に指の動きに感じながらまるで喘ぐように別の名前を呼んだ声と蕩けた顔が頭から離れない
その瞬間頭の中が真っ白になって気づいた時にはユウを殴りつけていた
転がったユウの顔が真っ赤に染まっていてもまるで実感はなかった
なんていうか...自分の身体が別物になったような、もう一人の自分はそれを遠くから見ているようなそんな感じだった
なんでこうなってしまうんだろう
大事にしたかったはずなのに...誓ったはずなのに...約束したのに...
それでも傷ついたユウを無理やり抱いたのはどうしても許せなかったから
なんで...なんで?
ユウ
なんで先生の名前を呼んだの?
気づくと目の前が霞んで揺れていた
「...っ」
慌てて目元に腕を押し当ててそれを塞き止めると、今さら自分のしたことの大きさがじわじわと湧き上がってくる
自分の中の真っ黒いものが足元から広がって今にも飲み込まれてしまいそうだった
「やっぱり俺じゃダメなのかな?」
ミツルは扉にもれながらしばらくそこを動くことができなかった
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