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第1話

新入生総代として壇上に立ったあいつに、オレは一目で心を奪われた。 不良しかいない掃き溜めみたいな学校に似合わない艶やかな黒髪、人形のように整った美しい顔、朗々と響く蠱惑的な低い声。 遠目からでもわかる均整のとれた身体は理想的で、びりびりと全身に興奮が駆け巡った。 堪らない。あれがほしい。 けれどもそう思ったのは当然オレだけではなく、オレはなんとか彼の視界に入ろうと、ケンカをふっかけて早々に返り討ちにされた。 腕っぷしの強さだけでヒエラルキーが決まるようなこの高校で、前評判の高かったオレがあっさり伸されたことで彼の評判はうなぎ登り。 あっという間に一年のトップになった。 頭もよくてケンカも強いとか最高だろ。 オレもなんとかNo.2まで上り詰め、その頃には浅いながらも友人と呼べる関係になっていた。 クールな見た目そのままというか、めんどくさがりというか、彼は周囲に頓着しないところがあったので上級学年への挨拶や小さな小競合いなどはすべてオレの役目だった。 周囲も落ち着いてきて、やっとゆっくり昼飯が食えるようになったのがGW明けくらい。 その頃のオレは友人としてあいつの隣にいらればそれでいいと思っていた。あいつは誰に告白されてもそっけなく断っていたし、女が好きなんだと思っていたから。 そう、この頃にはすでにオレは恋愛的な意味であいつのことが好きだった。 それが覆されたのが夏休み明け。あいつが女みたいに小さな同級生を恋人だと紹介してきた。 出会いなんてしらない。夏休み中になにかあったのだろうか。 いつもおどおどびくびくとして、オレたちみたいな不良を怖がり、あいつの背中に隠れてばかりいた男。 あいつが恋人を連れてきたことも、その相手が男だったことにも心底驚いたけれども、やはりああいった女みたいな奴がタイプなのかとオレはショックを受けた。 いつも通り笑いながら、心はぎしぎし痛んで仕方なかった。あいつの恋人に言わなくてもいいようなことを言って、あいつに睨まれたり。その度にこっそり泣いた。 だが、あいつとその恋人の関係は年が明ける頃には破綻していた。冬に学外の不良グループと揉めて、そのいざこざの最中にすれ違いがあったらしい。 結局、春になる前に『嫌いになったわけじゃないけどもう一緒にはいられない』と恋人は転校していった。あんな性格だから、学校にも馴染めてなかったようだ。 オレは足を骨折してしばらく登校していなかったから、結末しか知らない。 恋人と別れたあいつは荒れに荒れて、手がつけられなかった。そんなに好きだったなら別れなければよかったのに。 それでもオレはあいつのそばにいて、すでに親友といえる間柄となっていた。 少しずつ落ち着きを取り戻して、心の平穏が戻ったら、そのときこそ――。 そう思っていたのに、オレはまた間違ったみたいだ。 二年に上がって、あいつはやはり新入生からとても憧れられていた。そんな中、ひとりの一年があいつの後をくっついて回るようになった。 入学してすぐ絡まれていたところを助けられたらしい。 子犬のように目をキラキラさせて『パシリにしてください!』とか追いかけてきたときにはうっとおしそうに追い払っていたあいつも、何度追い返されても諦めない子犬くんに絆されたのか、ここ最近は側にいることを許している。 あんなに荒んでたあいつの表情が次第に柔らかくなっていくのを目の当たりにして、オレはひどく焦った。 あいつをなだめて気にかけてもらおうとしていたのに、いつの間にか子犬くんがそれをしている。 それに子犬くんは前の恋人とは違い、背は平均的だし、愛嬌はあっても特別かわいらしい顔でもない。どこをとってもただの男の子なのだ。 性格は明るくて元気で、どちらかといえばオレと系統が似てるから余計に嫌になる。 「なんでうまくいかないかな…」 告白どころか、アピールすらできていない。 そして今日、ついにあいつが子犬くんをオレのものだと宣言した。子犬くんを妬む者たちに連れ去られたところを救いだしたそうだ。 なんだそれ、ヒーローかよ。 「そりゃ、オレとこんなことしてれば、な」 「うぁ…っ、ちょ、やめ、あ、んあぁ…っ!」 肌触りのいい布がかけられた柔らかいソファーの上で、オレの足を抱え上げ遠慮なくがつがつ腰を穿つ男。 三年で、以前まで学園最強といわれていた男。その地位もいまではあいつのものとなっているが。 「あ…っ、んたが!オレに無理矢理っ、したくせに…!」 「抱いてくれって泣きながら強請ってきたのはそっちだろ?」 「わけわかんなくなるまで焦らすからだろぉ、あ…っ、あっ!」 「ああ。かーわいかったなぁ?」 去年、すでに学園一の座にいた男に、あいつに代わって挨拶に行ったときにすべて奪われた。それからずっとこんな関係が続いている。 「んっ、くそ…っ、」 力の入らない腕でなんとか男を押し退けようとして、そのままのし掛かられて口を塞がれる。 「んむぅ…」 肉厚な舌に口の中を舐められて、はしたない下半身からどろりと白濁が溢れた。その間も止まることなく腰を揺すられ、覚えてしまった快感に甘く咽び鳴きながら広い背中にしがみつく。 「おまえ頭悪いんだから、いろいろぐだぐだ考えてんじゃねぇよ。…ったく、てめえはオレのもんだろうが」 いやいや、オレが好きなのはあいつなんだから。 蕩けた頭でも男がおかしなことを言っていることくらいわかる。そんな思いで見上げれば逆に呆れたようにため息をつかれてしまった。 …なんで?

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