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第7話
10年が過ぎた。
ケツの青い高校生だった俺は28になり、そこそこでかい会社で普通のサラリーマンをしている。
周りはちらほら結婚して、子どもがいる奴もいた。
あの夏の逃避行の後。
文也の父ちゃんに思いっきり殴られて情けないツラになった俺を大笑いしながら、文也はアメリカに発った。
またね、と言い残して。
しばらくは連絡が取れたけど、バカなことにスマホを機種変してLINEのデータがぶっ飛んだ俺のせいで連絡は途絶えてしまった。携帯会社に散々文句を言ったけど消えたものはどうにもならなかった。
俺は毎年盆休みに京都に来て、文也と泊まったビジネスホテルの裏で一人で線香花火を上げている。
あれから文也がどうなったのか知らない。
治ったのか、まだ頑張っているのか、それとも考えたくもない最悪の結末を迎えてしまったのか。
でも俺は、文也が俺との約束を覚えていてくれると信じて、毎年一人で線香花火をあげるのだ。
「文也…」
あの夏よりも、日本の夏は随分暑くなって過ごし辛くなったよ。
今年は台風も多くて、危うく京都に来れないかと思ったんだ。
さっき、お前と行った団子屋さんに行ったら、店主が変わってたよ。
俺の携帯には、今も安っぽい金閣寺が揺れているけど、お前は?
今年最後の線香花火に火を点けようとしたその時、背後に人の気配を感じた気がしてゆっくりと振り返る。
「…葉介…?」
呆気なく散っていった淡く儚い夢は、10年経って息を吹き返した。
今年最後の線香花火を、俺と文也はあの夏のように二人で一緒に持って燃やした。
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