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最終話 何よりも尊きもの

「……どうしたんです? 泣いています? それとも笑っています?」 「笑っています。神も信じずに神父なんてやってきたけれど、貴方を私の元へと遣わせてくれた……」 「貴方が信仰心を捨ててなお神父となったのは、被害に遭う子供達を一人でも減らしたかったから。そうでしょう?」 「傷付ける教会があるなら、傷付けない教会もあってしかるべきだと思ったんです。だから私は明日からもまた不良神父を続けます」 「では、私はその不良神父さんの遠い親戚あたりのポジションをもらいましょうか。それなら一緒に暮らしていても誰も疑わない」  彼の言葉を理解するのに一瞬の時間を要した。 「一緒に? ずっと?」  彼は私の汗ばんだ髪にゆっくりと指を通しつつ甘く低い声で短く、もちろん、と答えた。 「羽もすっかり消えたでしょう? 私はもうただの人間(ヒト)です。だからずっと一緒です。死ぬ時も、死んだあとも」  私の灰色だった世界を色鮮やかに塗り変えた今や彼こそが私の世界の創造主なのだ。その創造主の言葉なら間違いはないだろう。   「疲れたでしょう? さぁ、安心して眠って。もう悪い夢は見ないから」  髪を梳いてくれる彼の指が心地良く、目蓋はどんどん重くなってゆく。  彼の囁く声が……囁く声が遠くなってゆく。 ――何度輪廻を繰り返そうとも必ず見つけるよ―― ――私は貴方の為に造られた存在……死んだからってアイツには渡さない……律儀に焼かれてもやらない―― ――絶対に手放さない……愛してる。愛してる……一緒に―― 「堕ちて」  大丈夫。貴方が望むなら、何処までだって一緒に堕ちてあげます。  貴方と手を取り行き着いた果てが俗に言う地獄だったとしても、私達にはそこが楽園なのでしょう。  私は咎他人(とがびと)……偽り、怯え、諦め、捨てきれない憎しみに塗れながらも赦されたかったのです。  貴方も咎他人……唯一絶対を裏切り、差し出された貴方の手は、身体は、心は、何よりも温かかったのです。    私達は咎他人。  購いきれない罪を犯したその先に、血を吐くほどに望んだ愛があったのです。  望んだ愛を私達は手に入れたのです……だから。    サヨウナラ、カミサマ。    

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