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【SS】げんきのゆびわ

『大好きな人に会いたい時に会えればいいのに』  恋をする人なら、愛しく思う相手がいる人なら、誰しも一度は願ったことがあるだろう。会おうと思ってもそうそうすぐには会えない距離の二人なら、なおさらだ。  愛しい人と片時も離れたくないリョウとって、遠距離交際はハードルが高すぎた。きっと耐えられないだろうと、はじめは付き合うことを躊躇した。  さらには互いの職業柄休みも合わず、きっと寂しくて辛い交際になるであろうことは目に見えていた。だから諦めようとさえ思った。そんな数々のマイナス面を承知の上で、それでも結ばれたい、と思う気持ちが勝ってしまった。  だからといって平気なわけではもちろんない。「寂しい」が心の中でデフォルトになっているし、たまに声が聴ければ会いたいとこぼす。  恋人のアヤは決して気が利く男ではないが、たまに天然で大ヒットを放つ。リョウの気持ちを知ったうえで特に何をしてくれるわけでもないが、時々泣きそうになるほど嬉しいことを言ってくれたりする。自身のファッションセンスは皆無でてんで無頓着なくせに、たまのプレゼントは気が利きすぎるものをくれる。    不思議な男で、飽きないどころか目が離せない。  こんな男今まで見たことなくて、興味深くて、不思議で、面白くて、大好きで。 『会えない間は俺の代わりだと思って』  なんて気障な気持ちで贈ったわけではないだろうが、ペアの腕時計はいつもリョウの左手首で共に同じ時を刻み、将来を誓い合った指輪はいつもリョウの薬指で時折リョウと見つめ合い、同じ風を感じ、同じ音を聴き、同じものを見ている。  寂しくて、無性に会いたくなる夜だってある。  そんな時は瞳を閉じて、指輪にそっと口づける。そうすれば、すぐそばに、アヤを感じる。  うん、まだ大丈夫。頑張れる。  大きく息を一つ吐き、視線を上げれば、スマホが振動した。瞳が輝く。 「もしもし!今仕事終わったん?お疲れ。え、俺?今?アヤから電話かかってけえへんかなあって思ってたとこ!」

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