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晩夏 1

土砂降りの夕立に洗い流された街を歩く薫の足取りは重い。 9月後半とはいえ、夕方まで残った熱気と立ち上る湿気に体力を削られ次第に俯きがちになってしまう。 上手く回っていたはずの歯車はどこで狂ったのか。 少しづつ噛み合わなくなった関係は今や空回りして手に負えなくなっている。 表面上はいつもと変わりないように見える立花との関係。 いつからか目に見えない壁ができ、原因の分からない薫には対処のしようがない。 まるで薄氷の上を歩くような毎日に、薫の精神は張りつめ疲弊していった。 立花の態度に違和感がなかった訳では無い。 夏休みの講習辺りから時々感じていたもの言いたげな視線。 ふと見せる曇った表情。 チリチリとした焦燥を覚えながらも、気持ちに余裕のなかった薫は気づかないふりをした。 今思えば、その時にちゃんと話すべきだった。 8月に入り義兄が帰省した自宅で緊張した時間を過ごしていた薫は、立花の変化を感じながらも向き合うことを選ばなかった。 義兄との距離と立花との距離。 近づきたくて、でも怖くて足踏み状態なのはどちらも同じだ。 家族と言う切れない縁がある分、義兄との関係の方が複雑で、進むことも戻ることも出来ずに立ちすくむ自分がいる。 鬱々とした気分のまま帰る気になれず、薫の足は洋平のバイトしているカフェに向かった。

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