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第17話

 そんな風にして試験を乗り越える頃には季節はすっかり夏になり、地元の中高生たちにとって楽しみな夏休みが待っていた。  そう言えばもうすぐ花火大会がある。ここは田舎の町だけど、海の上から打ち上げる花火は最近SNSで有名になって、近隣県から観光客が集まるようになっていた。  今年はどうする?ってグループメッセージを入れようとしてたら、ハラショから連絡が来た。 ハラダ>花火大会行くよな? 広世と山本も誘った。  山本はよく一緒に遊びに行くからわかるけど、何でハラショが広世を? 首をひねりつつそこには触れずに返信した。 野原>土曜だよね、行く。珍しい組み合わせだな ハラダ>だよな その後数分してメッセージが一行増えた。 ハラダ>あと女の子も来るけど、いいよな?  もしかしたら、気になるって言ってた花苑の子なのかな?でもだったら二人で行けばいいじゃないか。なんでそこに広世と俺(と山本)が誘われるんだろう? >了解 って入力して送信ボタンを押した瞬間、 これって合コン的なやつなのかって気が付いた。  胸の奥がモヤモヤする。遊びに行くのは楽しいんだけど、何でこんな気持ちになるんだろう。 ****  結局集まったのは男4人に女3人だった。時間通りに着いたつもりだったのに、俺以外の全員が待ち合わせ場所に集まっていた。 「ごめん、俺が一番最後?」 そういいながら小走りに近寄るとみんな一斉に振り返える。 「おう、最後だけど全然間に合ってるし大丈夫」 「電車できたの?」 「あ、これは野原ね」 「よろしくー」「よろしく」「こんばんは」  わらわらとお互いに自己紹介してゆく。  歩行者天国になっている道路が非日常感を後押しして、花火大会の少し浮ついた雰囲気を盛り上げてくれる。男はみんな申し合わせたようにハーフパンツにTシャツ、女の子たちは浴衣を着ていた。 「そっちもみんな浴衣着てくればよかったのに」  ふわふわした帯をした女の子が広世に向かって話しかけた。 「持ってないやつもいるだろ?」 「あはは、女物でよければ私の貸すよ」 「この中で女物を着れそうなのは野原くらいだな」  悪気のない山本の声。 「野原くん、似合いそうね」  お約束みたいなツッコミをする知らない女の子に曖昧に笑い返した。  そんな雰囲気のまま全員がそれぞれ少しよそ行きの顔をしながら、混雑し始めてきた道を歩いてゆく。  気の置けない友達と毎年来るこの花火大会が好きだった。でもこうやって、変わってゆくんだ。好きな人ができたり、違う学校に行ったり、二年後には進学で違う県に行くことだってある。  ハラショは結構頑張って一人の女の子に話しかけていて相手もまんざらじゃなさそう。山本と広世がもう一人の子と話をしながら前を歩いていた。  俺と一緒にゆっくりと歩いているふわふわの帯の桐原さんは、去年の東高の文化祭に来たといっていた。男子校の文化祭の舞台裏を面白可笑しく話したら、女子高だって結構すごいよ、と盛り上がった。  でも、前を歩いてた女の子二人に「ねぇ、きりちゃん、去年の花苑(うち)の学祭のあれって、なんだっけ?覚えてない?」とハラショたちの集団に呼ばれていった。  楽しそうな身振りで話をしてるのを見ていたら、いつの間にか広世が隣にいた。 「いい雰囲気だな」 「ハラショ?」 「うん、山本もちゃっかりいい感じだし」  喧騒に負けないように声を張り上げながら話していたら、前触れもなく遠くから花火の上がる音が聞こえた。人混みの頭越しに今年初めての花火が光り、一瞬間が空いて音がする。 「始まった!」  周りの人達も立ち止まって同じ方向を見上げていた。  人にもまれて広世のすぐそばまで押し出された。肩が広世の胸元に当たってる。汗かいてるし、くっついてごめんって言いたかったけど声が出ない。嬉しい様な、くすぐったい様な気持ちが指先まで身体を撫でて走ってゆく。  だから、花火の上がる方向から顔を動かすことができなかった。広世の顔なんか見ることができる訳がなかった。  花火を見ていたのは何秒くらいだったんだろう、後ろから「すいません、すいませーん」と女性の声がした。通り抜けようとする親子連れのために広世が俺の背中を押しながら屋台の間の隙間に入った。  両側からイカ焼きとはし巻のいい匂いがしてくる。  ふと気が付くと他の五人が見えなくなっていた。  メッセージを送ればいいけどこの混雑じゃ移動もままならない。  どうする? って隣を見たら、広世もこっちを見て困ったな、って笑った。

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