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後日談~2(書き下ろし)
「サピルス……」
唇が重なる寸前で名を呼ばれ、そのまま口付けられると何故かまた涙が頬を伝う。
感情がコントロールできない。
嬉しいはずなのにどうしてこんなに切ないのか……
「……ッ……んん」
今まで何度もしてきたはずのキスは今までで一番優しくて甘く、それはこの切なさに拍車をかけるようだった。
「……今日はどうしてすぐ泣くんだ。あれほど我慢強く俺への感情を押し殺していたのに」
「……え」
「ここでおまえが、眠っている俺にこうしていただろ」
そう切なげに口にしながら、僕の手を取り人差し指をそこに押し当てる。
「こうして、俺の唇をなぞりながら……」
「気付いてたんですか?」
「あぁ、もちろん。眠っているフリをしていた」
限界をとうに越して自ら触れてしまった昨夜を知られていたなんて……
「本音は、昨夜おまえの目の前で真実を口にしてしまいたかった。だけど、そう言うわけにはいかなったから。だから、ああするしかなかった……すまない」
「いえ、謝らないでください。本来なら好きになってはいけない方を好きになったのは僕ですから。なのに、想いが通じて、更にはルベウス様も僕を好きでいてくださったなんて……なんだかまだ信じられなくて。ルベウス様が本当に僕を……」
「様は付けるなと言ってあるだろ。それに、おまえはどうしたら信じるんだ」
「……分からない。だって……」
絶対に想いが通じることはないと思っていたんだ、そう簡単に信じられるわけがない。
そんな僕にため息をついたルベウスが、ベッド横のサイドテーブルの引き出しから何かを取り出す。
「……左手を出せ」
「あの……」
「そんなに信じられないなら、今すぐに信じられるようにしてやる」
そう言って、何かを僕の薬指に通した。
「これ……」
「おまえにこれを渡す日が来るのをずっと待っていた。ずっとここに大事にしまっておいたんだ。どうだ、これで信じたか?」
そこに付けられたのはルビーとサファイアの石が埋め込まれた指輪。
それは陽の光によって、色鮮やかに美しくキラキラと光っていた。
「こ……これを僕に……?」
「ルビーとサファイアだぞ?おまえの他に誰がいるって言うんだ」
そう愛おしそうに指輪をなぞりながらルベウスが言葉を続けた。
「このブルーサファイアの石に込められているの言葉の意味は誠実。それにもう一つは一途な想い。サピルスにピッタリだよな。それに運命を引き寄せる力があるらしい」
「……そんな意味が。じゃあ、ルビーにも意味が?」
「ルビーには、燃え上がるような情熱と深く強い愛情……それに、大切な人との運命的な出会いを叶えると言う意味があるらしい」
「運命……」
「そうだ、俺達が出会い、結ばれたのは運命。だからこれまでもこれからも俺の想いは変わらない」
“同じ星の光を持つ者こそが定めし運命の人……”
それは二つの石に込められた意味にも通ずるものがあったのか……
「サピルス、これで信じたか?」
ルベウスの問いかけに小さく頷くと、掴んでいる左手を愛おしそうに口元に運ぶと触れるだけのキスを落とされた。
そしてこの部屋に来た時、直にわかると言ってた理由を知らされる。
「それに、陽の光を当てると見えるんだよ」
「何が?」
そう言って窓から入る光にその指輪をかざしながら、ルベウスは続きを話した。
「俺達の瞳と同じように光るこれ」
ルベウスが石に視線を移し、同じように視線を重ねると、そこには三本の線が交差して現れる六条の光が現れていた。
「この星彩線をギリシャ語で星を意味するアステから、アステリズムと呼ばれている」
「アステ……リズム……」
「そうだ。そして、この三本の線には“信頼”、“希望”、“運命”が宿っていると言われてるんだ」
「この線にそんな意味も……」
「指輪を渡した時、サピルスとこのアステリズムを一緒に見たかった……だから今、陽の光の元で渡した。俺達がどれほどの強い運命で結ばれていて、俺がおまえをどれほど愛してるか……いい加減分かっただろ?」
こんなにも想われていたことに言葉が見つからない僕は、嬉しさからまた涙が溢れ頷くことしか出来ない。
そんな僕の涙を拭いながら、泣くなと再び口にすると、
「運命とこの指輪に誓って、俺はサピルスをこれからも変わらず愛していく……」
そう告げ、陽の光に照らされた美しいルビー色の瞳で僕に笑いかけた。
それは赤く情熱に満ち溢れた、ルベウスらしい美しい瞳。
その瞳に吸い込まれるように自らルベウスに口付け、僕も愛の言葉を捧げるのだった……
「僕も愛してます……今までもこれからも、貴方のことだけを────」
END
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