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魔法

 テディの魔法のおかげで、旅はかなり楽だった。  早く歩ける魔法や火をつける魔法、体や服の汚れを落とす魔法なんかがあるので、すごく便利で快適だ。  テディが元から知っていた歌だけでなく、旅の間に俺が教えた日本語の歌からも旅や日常生活に便利な魔法がいくつか見つかった。  ある時なんか、有名な温泉旅館のCMソングを教えたらテディの手から温泉のお湯が出て、ありがたかったけれど、さすがにちょっとあきれた。  そんなふうに便利な魔法だけれども、万能ではないのだとテディは言う。 「魔法で出した物はしばらくすると消えてしまうから、食べ物や飲み物は出しても意味がないんだ。  食べた時は腹がふくれるが、そのうちに腹の中で消えてしまうからまた腹が減ってくる」 「あー、なるほど。  それじゃあ食べても栄養にならないね」 「ああ。  それに空を飛ぶ魔法なんかは、飛んでいる間ずっと歌っていないといけないから、その間は他の魔法は使えない。  だから俺たちを追ってきた魔術師も、空を飛ぶ魔法を使う魔術師とミサイルを撃ってくる魔術師の二人一組だっただろう」 「あー、そう言えばそうだったね。  ……あれ?  けどあの時テディは空を飛びながら、ミサイルをバリアで防いでなかったっけ?」 「ああ、実はあの魔法は『何にも邪魔されないで2人で空を飛ぶ』魔法なんだ。  だからあの時は都合が良かったんだが、それでも1人の時は使えないしバリアのせいで攻撃もできないから、それほど使い勝手がいいわけじゃない。  軍では退却や要人輸送には使えるということで教わったが」 「そっか。  でも制限があっても、ミサイルまで防げるんだから十分すごいよね。  俺、ミサイルが飛んできた時はさすがに死ぬかと思ったし」  俺があの時のことを思い出して身震いすると、テディはちょっと笑った。 「さすがに向こうも死ぬようなミサイルは使わないはずだ。  貴重な異世界人を殺すわけにはいかないから」 「あ、そうか」 「それと、あの時ミサイルが防げたのは、あの魔法が特別すごいというよりは、相手の魔術師より俺の方が魔力が高かったせいだな。  魔法同士のぶつけ合いになると、魔力が高い方が勝つから」 「へー、そうなんだ。  ってことはテディは魔力が高いんだね。  すごいね」  俺がそう言うと、テディは少し照れてみせた。 「まあ、あの時だけが特別で、今はそれほどでもないのだがな。  あの時は絶対に和生と2人で逃げ切らなければと思って火事場の馬鹿力が出ていたし、それに和生が発作を起こした時にもらった魔力が2回分あったから」 「あ、そ、そう言えばそうだったね……」  発作を起こしている異世界人を魔術師が抱くと、魔術師の魔力が一時的に上がる効果があるらしい。  異世界人が国に狙われるのは、異世界の歌だけではなく、そっちの理由もあるようだ。  発作を起こした時にテディに抱かれたのは、俺としては「テディに発作を治してもらった」という意識だったのだが、テディからしたら俺に魔力をもらったということになるのだろう。 「あの時無事に逃げられたのは和生のおかげだ」  改めてそうテディに言われたが、その内容が内容だけに、俺はなんとも言えない恥ずかしい気分になったのだった。 ────────────────── どの歌が何の魔法になるのか想像するのが楽しいです。 温泉のCMソングはハ○ヤと思ったけれど、和生の年代では知らない気がするので、淡○島のホテルで。スパ銭だけど竜○寺の湯とかでも。どの地域でも一つくらいは有名な温泉CMがあるんじゃないかと思います。 2人で飛ぶ歌はアメリカのミュージカルや童話原作のアニメにありそう。 ミサイルは案外タイム○カンとかの黒こげになってピクピクするだけで殺傷能力がないアレだったりして。麻酔弾とか催涙弾の歌とかはなさそうだしなあ。敵が睡眠ソングの子守唄を使わなかったのは距離があったからということで。

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