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 いつもよく使う居酒屋に行くと、既に店の前には春臣の姿があった。 「は、春臣…」 「なに、汗なんかかいちゃって。走ってきたのか?」  整いすぎた顔で優しく微笑んだかと思うと、白く長い指の先で俺の頬をスっと撫でる。びっくりして無駄に飛び上がったら、春臣が白い歯を見せて笑った。 「集は可愛いな」  食事中、終始俺は夢心地だった。  店の前で言われた“可愛い”にはどんな意味が含まれているんだろうかと考えると、心臓がバクバク踊る。  そのうえ向けられる視線や言葉がなんだか酷く甘く感じて、やたらに伸ばされ俺に触れる指が熱い気がして、やっぱり春臣も俺のことを気にしているんじゃないかと思えてくる。 「集、大丈夫か? 顔が真っ赤だけど、酔った?」  俺の頬に触れた春臣の手が冷たくて気持ち良い。思わずその手に擦り寄ると、それはじんわりと熱を持ち始める。春臣が、くすっと笑った。それがとてもくすぐったくて、更にその手に擦り寄ろうとした。けど、その手は呆気なく引っ込められてしまう。 「そろそろ店を出ようか」  伝票を手に、さっさと立って行ってしまう春臣の後を追いかける。その足はどこか急いているようにも見えた。  もしかして、  もしかして、  もしかして……。  店を出たその後に期待して、支払いの最中もずっと俺はそわそわしていた。 「じゃあ、またな」  店から出ると、春臣が片手をあげた。 「え、え…?」  思わず俺は、上げられた春臣の手を掴んだ。 「え、なに、帰っちゃうの…?」  アルコールに浮かされた、潤んだ瞳で春臣を見上げる。  こんな地味な見た目をした俺が、女の子のように上目遣いをしたところでなんの魅力もないことは分かってる。  でも寂しくて、まだ帰りたくなくて、一緒にいたくて。それは春臣も同じだと信じたくて、俺は春臣の瞳を覗き込んだ。  俺が映り込む、その綺麗な瞳が細められた。  ねぇ、誘ってよ春臣。お前も俺と同じなんだろ…? 俺たち、もう少し進める道があるんだろ…?  春臣の、形の良い薄い唇がゆっくりと開いた。 「ごめんな集、この後彼女と待ち合わせてるんだ」

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