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第1話

犬塚は深い眠りの中にいた。 頭が重く、気持ちが悪い。 まるで泥沼から這い出すような不快な感覚と共に目覚めようとしていた。 「……う」 ゆっくりと犬塚の意識が浮上する。 身じろいだ瞬間…… ガチャリ。 「!?」 金属音と体を引き止める存在にハッと目を開いた。 「起きた? 犬塚」 「……!」 声のする方を見れば、犬塚の斜め向かいのソファに竜蛇が座っていた。 長い脚を優雅に組み、いつもの微笑を浮かべて犬塚を見ている。 「さて」 竜蛇は手に持っていた小さなリモコンのようなものを操作した。 すると犬塚の真正面に設置された大きな白いスクリーンに犬塚の姿が映しだされた。 「ッ!?」 犬塚は赤い診察台のような拘束椅子に座らされていた。 両手首は頭上で拘束され、大きく股を開いた状態で両足首を拘束具で固定されている。 犬塚はスクリーンに映る自分の姿に驚愕した。 薄いサテンの黒のノースリーブのドレスを着せられている。 膝上のドレスの裾から覗くガーターベルト。黒の薄地のストッキングに包まれたすらりと伸びた脚。ご丁寧に真っ赤なピンヒールまで履かされていた。 うっすら化粧も施されており、グロスで濡れたように艶めく唇に黒革の口枷を咬まされていた。 「んんぅッ!!」 犬塚は羞恥と屈辱に頬を染めて、ガチャガチャと拘束具を鳴らして暴れたが拘束椅子はビクともしない。 「犬塚。昨夜のセックスは最高だった。お前は素晴らしいよ」 竜蛇がゆっくりと近付く。 「……だが俺の腕の中で他の男の名を呼ぶのはいただけない」 犬塚の黒髪をぐっと鷲掴み、視線を合わせた。 「どんな夢を見ていた? 俺に抱かれて眠りながら……ブランカを呼んだな」 「!?」 昨夜、激しく竜蛇に抱かれて気絶するように眠った。夢など覚えていない。泥のように眠っていたのだ。 だが竜蛇は眠る犬塚がブランカの名を口にしたと言う。 「お仕置きだな」 唇に微笑を浮かべてはいるが、竜蛇の琥珀の瞳は全く笑っていない。氷のように冷たい視線で犬塚を射抜く。 本気で怒っているのだと伝わった。 「う……んぅ」 この悪趣味な舞台で何をされるというのか。 竜蛇の刃のような視線に犬塚の体が本能的に怯えた。 「お前は俺のオンナだから相応しい姿にしてやったんだ。綺麗だよ、犬塚」 グロスで濡れた犬塚の唇を竜蛇の舌が蛇のようにチロリと舐めた。 「お前が俺のオンナだと分かるように、録画してブランカに送ってやろう」 「ッッ!!」 犬塚はヒッと息を呑む。信じられないものを見るように竜蛇を見た。 竜蛇の氷のような視線は全く揺らがない。 この男は本気だ。 ゴクリ、と犬塚の喉が鳴った。

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