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1-1 夏の誘惑

7月12日 憂うつだった期末テストも終わり、あと二週間もせずに夏休みに入る時期。 どこに行こうか、課題少なかったらいいな、バイト増やそうか、夏までに恋人できなかった… クラスでの話題はどのグループもほとんど同じだった。 新校舎の三年とは違い旧校舎の一、二年の教室にはエアコンがなく四方の壁にある扇風機が温い空気を送っている。 一番左側の列の一番後ろ、誰もが羨むだろうその席は窓際なのでよく風は通るものの、日射しがきつくて目があけられず自分の席で項垂れていると頭をポンポンと叩かれた 「なっちゃーん」 なっちゃん、そう呼んでくるのは一人しかいない。 高校に入って出会った友人、沖田 秋彦(おきた あきひこ)だけだ。 「なに…」 「元気ないなあ、もうちょっとで夏休みじゃんか、どこいく?何する?」 「夏って暑くて家から出たくない派だって去年も言っただろ」 「つまんない!高校二年の夏だぞ、俺の誕生日もあるし、ほら、華のセブンティーン!海いこう海」 「いやだ野郎二人で海はむなしい」 「泣いた」 「……」 「嘘!ごめん!今年もなっちゃんの家通う!」 通う、なんて表現はおかしいようにも聞こえるけれどあながち間違いでもなくて、去年の夏休みも、このあいだの春休みも、秋彦は3日に1回はうちに来て何をするわけでもなく過ごして帰る、なんてことをしていた。 そのことを思い出すとなんだかおかしくなって、つい吹き出してしまった 「なに笑ってんだよ!」 「いや、そういえば去年すっげー来たなと思って」 「迷惑?」 「いや、どうせ誰もいないしいい」 「なっちゃんのさみしんぼー!」 「うざい」 ガシガシと頭を撫でている手を払う。 払われた手をひらひらとさせながら唇を尖らせてみせる秋彦を今度は自分がよしよしと撫でてみる すると嬉しそうにすり寄ってくる。 「猫か」 そう一言突っ込みを入れては撫でるのをやめ 帰り支度を始める 「秋彦、うち来るだろ、今日も」 「行く!」 入学してからずっと一緒だったから これからもこの関係は変わらないだろうと このときは思っていた

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