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3.

「きちんと寄り道せずに帰ってね?」 「うん。翠葵も頑張ってね」 高校に入って翠葵は弓道部に入った。 弓道衣を着て弓を引く姿は物凄く格好良い。 初めてその姿を見た時は、まるで恋する乙女の如く魅入ってしまった。 因みに僕は帰宅部だ。 授業が終わると同時に寄り道せず下校している。 翠葵と分かれ、駅に向かい歩き始めた。 新しい本欲しいな。 思ったら速攻行動に移す派な僕は駅に向かう前に本屋に立ち寄った。 新刊コーナーに向かった時、何か不思議な匂いを感じた。 甘い様な痺れる様な何とも言えない香り。 なんか苦手だ。 この本屋アロマかお香でも焚いてるのかな? 気にせず当店オススメNo.1とPOPで紹介されている本に手を伸ばした。 その瞬間 「見付けた」 本を掴む筈だった手が誰かに掴まれた。 ん? 突然掴まれた手。 ゆっくり視線を移すと 「え、廣瀬先輩?」 其処には1つ上の先輩が居た。 廣瀬禅(ひろせ ぜん)先輩は黒髪とアンバー(琥珀色)の瞳を持つαだ。 知的で端正な顔立ちと常に学年一位の頭脳を持つ彼は先生には好印象だし、生徒には尊敬されている。 尚且つ運動神経もずば抜けて良いし、カリスマ性も持ち合わせている。 天は彼に二物を与え過ぎじゃないだろうか。 かなり羨ましい。 なので何も面識のない自分でも廣瀬先輩の事は知っている。 ていうか、見付けたって何だろうか。 もしかして先輩はこの本を探していたのか? 「あっ、どうぞ」 目の前の本を1冊取り手渡した。 「え?」 ん?違うのか? 軽く苦笑するとそのままレジに向かった先輩。 買いたい衝動が治まった為何も買わず本屋を出た。 再び駅へと歩き始めたら 「待って」 後ろから声が掛けられた。 何か用だろうか。 「はい?」 ゆっくり振り返った。 「はじめまして。俺は廣瀬禅。君の学校の2年です。名前聞いても良いかな?」 えっと、何故僕先輩に名前聞かれてるんだ? 不思議に思ったが無視するワケにはいかない。 「北原星流、1年です」 名前を告げた。 って、あれ? なんかまださっきの変な匂いがする。 なんの匂いだろ、コレ。 初めて嗅ぐ香りだ。 先輩からする。 なんだコレ本屋じゃなく先輩から香ってたのか。 香水かな?なら付け過ぎじゃないか? 自分の匂いって意外と自分では気付かない物だ。 つい無意識に付け過ぎたんだろうな。 匂いの事ばかり考えていたら 「良かった。凄く可愛い」 聞こえたホッとした様な声。 「これから宜しく」 手を差し出され 「え?」 混乱したまま握手をした。 その後駅で先輩とは分かれたが、僕は無意識に先程先輩に触れられた手を見ていた。 何だろう。 本屋で掴まれた時も握手した時も変な電流が流れた。 静電気みたいな軽い刺激がビリビリと脳天迄突き抜けた。 先輩電気が貯まりやすい体質なのかな? 初めて嗅いだ香りと感触。 何とも言えない違和感を抱いたまま帰宅した。 翌朝いつも通りに登校し、弓道場に顔を出した。 「おはよ」 制服に着替え終わった翠葵と一緒に教室に向かう。 毎日欠かさず朝練後の翠葵を迎えに行く。 翠葵とは登下校と部活以外では殆ど一緒に居る。 互いに依存しあっているのは分かっているが、一緒に居たいから止めない。 翠葵が嫌がらない限りはずっと続けていきたいと考えている。 他愛ない話をしながら教室に向かっていると 「おはよう」 突然前方から声を掛けられた。 え? 其処に居たのは廣瀬先輩。 「おはようございます」 何故話し掛けてきたのだろう。 昨日から不思議だ。 翠葵と二人で挨拶を返しそのまま通り過ぎる。 あっ、まただ。 その瞬間昨日と同様の香りがし、顔を顰めた。 「ねぇ翠葵。廣瀬先輩って香水キツくない?」 教室に入るなり小声で翠葵に尋ねる。 「え?香水?」 ん? 「さっき擦れ違った時スッゴイ匂いしなかった?」 「う~ん。別に何もしなかったよ、匂い。星流ってそんなに鼻良かったっけ?」 は?あんなに強かったのに何もしなかったのか?匂い。 離れていても鼻に付いたぞ。 「翠葵鼻詰まってる?」 「いや、全然」 ぅう~ん、謎。 気にはなったが別に大した事ないのでそのまま話を終わらせた。 「星流」 ん? 1限目の休み時間、何故か先輩が廊下から僕を呼んだ。 何だ? てか、今名前で呼ばれなかった? 昨日の今日で名前呼びって、仲良くなんの早過ぎじゃないか?先輩。 「どうしました?」 教室を出た。 「いや、別に用事はないんだ。ただ顔が見たくて」 はい? 意味が分からなくて首を傾げると 「じゃあまたね」 先輩は爽やかに微笑み去って行った。 一体何だったのだろう。 「先輩何の用事だったんだ?」 翠葵に聞かれたが僕も分からない。 「さあ?」 曖昧な返事をした。 その後も不思議な事に先輩は休み時間毎に教室に来た。 それも何か用事があるワケでなく顔を見にくるだけ。 何だろう。ほんっと謎な人間だ先輩。 その理解不能な行動は翌日も続いた。 またその翌日も続き、流石に不思議に感じた僕は 「あの、何故先輩は僕に逢いに来るんですか?」 質問した。

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