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最終話
「……、カッツェ…」
自然と呟いていた。
ガットはハッとして首を軽く振ってから再び大股で歩きだす。
路地裏を抜けて、ガットの頭にも日差しが降り注ぐと思っていたより暑くてじんわりと額に汗が滲んだ。
大通りに出るとフィオレオと約束をした駅の時計台へ向かう。起きてからまだ何も腹に入れておらず、ぐぅっとお腹が鳴る。今日は何を食べるかと考えながら歩いていくとだんだんと人が増え、そろそろ目的地へ着くことが分かった。
遠くに駅舎が見え、その入り口に時計台が見えた。さらにその下に、黒のケープを羽織った男が、折角の高身長を猫背にして存在感を薄め、駅舎を出入りする客に何度もぶつかられていた。近づいていくと、ぶつかられているのにペコペコと頭を下げているフィオレオにガットは小さく溜め息を吐くが、頭を上げる際にケープが外れて金髪が現れると日差しを反射してキラキラと光り輝いた。
その輝きに金目が僅かに大きくなる。さらに、顔を上げたフィオレオがガットに気付くと困り顔だった横顔が笑みを称えて己へ手を振る姿に、思わずガットは息を飲んだ。
こんなにしっかりとフィオレオのことを見たのは、初めてだったようにガットは思った。
あと数歩で交わるはずが、動かないガットに首をかしげてフィオレオの方から近づく。
「ガット?どうしました?」
ガットはすぐに答えず、フィオレオを見続けた。真顔で見つめられてフィオレオの碧目がゆらゆらと宙を彷徨う。
「え?あの?え?ガット?」
「フィオ…」
ようやく名前を呼ばれて、フィオレオがガットを見るとポンッと肩に手を置かれる。
そして、至極真面目な顔のまま、ガットの口が開いた。
「お前って…」
「はい」
「ハゲみたいなんだな?」
「………はい?」
思わぬ言葉にフィオレオは固まり、瞬きを繰り返した。
「いやぁ、ハゲみたいに光るんだなぁって思って」
「えぇ!?まさか後頭部とか禿げてますか?」
慌ててフィオレオは己の後頭部へ両手をやり、髪の毛とは違う感触を探す。
その姿にふっとガットは笑い、フィオレオの頭にポンッと手を置いて、柔らかな癖毛を触って歩みを促した。
「…冗談だ。さっさと飯食いに行こうぜ」
「もうっっ、ガット、からかわないで下さいよっ」
ドキドキしたと胸元に手を置いてフィオレオは文句を言いつつガットの横に並ぶ。それは、いつもの光景だった。
ガットは満足そうに口許を緩めながら腰の袋をそっと後ろ側にして、朝食兼昼食の屋台を見つけようと歩き出した。
end
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