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第1話

「おきてー!れおにぃー!!れーおーにぃーー!!!」 さっきから俺、八神 玲雄(やがみ れお)の上で起きろと喚いているのは、10歳下の弟で小学校一年生の詩音(しおん)。父親の再婚相手の連れ子だから血は繋がってないけど、詩音は俺にめっちゃ懐いてるし、俺もそんな可愛い詩音が大好きだ。 「んー、おはよう詩音。...あれ?お前学校は?今日水曜日だよ?」 「何言ってんのれおにぃ!もう学校終わって帰ってきたんだよ?」 「うっそ!!」 「うそじゃないよー!」 時計を見ると、針は4時前を指していて、どうやらせっかくの創立記念日を俺は一日寝て過ごしてしまったらしい... 「てか、なんでそんな格好してんの?」 「れおにぃ知らないの?今日ハロウィンだよ!トリックオアトリート!お菓子をくれないとイタズラしちゃうぞー!」 「あー、今日ハロウィンか」 「そーだよー!おかし!おかし!おかし!」 まだ俺の上に乗ったまま、魔法使いらしい帽子を被り、手に持った杖をブンブン振り回しながら、早くくれないと魔法をかけちゃうぞー!と催促する詩音にやっぱり小学生だなと苦笑する。 「はいはい。お菓子ね。あげるから降りてー」 「やったぁー♪」 やっと詩音の重みから解放され、自分もベッドから降りて机の横の棚にストックしてあるお菓子の中から詩音の好きなチョコレートを手に取った。 「はい、どーぞ!」 「やったー!れおにぃー、ありがとー♪」 「おう!お礼に後で写真撮らせてね」 「いいよー♪」 大好きなチョコレートに喜んで、上機嫌で部屋を出ていこうとする弟を見て、ふと思いついてしまった。 「詩音、やっぱちょっと待って」 「なーに?」 ちょっと意地悪してみよう... 「トリックオアトリート!お菓子をくれないとイタズラしちゃうぞ!」 「えぇー!僕お菓子持ってないよ!」 「手にチョコレート持ってるじゃん?」 「これはれおにぃがくれたんじゃんー」 「じゃー、詩音はお菓子じゃなくてイタズラにする?」 「うぅぅ...」 普段ならこの辺で冗談だよと言ってあげるが、困惑して目を潤ませる詩音に今日はもうちょっとだけ意地悪したくなった。 詩音の前まで行き、目線を合わせてニヤリと笑う。 「詩音からちゅーしてくれたらそれで許してあげようかな♪」 「!?」 俺の意地悪な言葉に詩音は顔を真っ赤にして驚き、俯いてしまった。 そんな可愛い反応を見れて満足したので、冗談だよと口を開こうとしたら、それより先に、ちゅっと一瞬だけ唇に柔らかいものが、押し当てられた。 「これでいい...?」 さらに真っ赤な顔で目をうるうるさせて聞いてくる詩音に俺はびっくりしすぎてコクコクと頷く。 ちょうどそこへ母親が帰宅する音が聞こえた。 「あ!ママ帰ってきた!」 目をゴシゴシと袖で拭き、何事も無かったかのようにおかえりー!っとパタパタと玄関へ走っていく弟に俺は呆然とする。 玄関からは、「れおにぃにチョコレート貰ったー!いいでしょー!ママもお菓子くれないとイタズラしちゃうぞー!」と元気な声が聞こえてくる。 冗談で言っただけなのに、マジでキスされるとは思わなかった... これまでキスしたどの女の子よりも柔らかかった唇と涙目の真っ赤な顔を思い出す。 もう1回キスしたい、次はどんな反応するのか見てみたい... いやいや、弟だし...と自分の中に芽生えてしまった邪な思いを首を振って追いやり、そういえばまだ写真を撮らせてもらっていないことを思い出し、その可愛い姿をシャッターに収めるために、スマホを持ってリビングへ向かった。

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