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Sweet Love
ドイツ、川沿いのアパートメント室内に、
僅かな音と共にラインが届いた。
「 うわ、珍しいバックドアの渋谷君からだ 」
「 へぇ、あの好青年そのものの?」
笑いながらメンバーが俺のスマフォの画面を覗く。
「 あぁ、これ、嬉しい!
遠藤さん、結婚したって 」
「 遠藤さん?って?
あぁ、お客さんだよね。
あの背の高いイケメンの 」
「 そうだよ、遠藤 希さん。
アメリカでも良く演奏聴きにきてくれてたんだけど、俺が日本に来てから偶然街であって、それからバックドアに来てくれるようになったんだ 」
「 へぇ、結婚かぁ……
あんなイケメンでセレブな人の相手はどんな美人なんだろうな 」
そんな会話をしながら俺は遠藤さんとの出会いを思い出していた。
俺がサックスを吹くライブハウスに彼が来たのは3年ほど前。
ちょうど日本にカフェスタイルのバーを出店させるから俺がトップバッターで行くという話がチラホラと出ていた頃だった。
仕事帰りなのか仲間数人と現れた彼は東洋人なのに背すじがまっすぐ伸びて、アメリカ人に囲まれていてもその存在はかなり目立っていた。
彼もバンドの中で唯一東洋系の俺に気がついたのか、
何曲か終わった後でリクエストを観客に求めると、いの一番に彼は俺を見ながら手を上げた。
そして、
「 ソウルなんだけどできますか?」
と俺に尋ねた。
少し挑戦的なその物言いに俺も返すように、
勿論!
と答えて吹いたのが、
彼がリクエストしたあの曲だった。
かなり前の曲だけど、有名なナンバーにかえってバンドのメンバーもノリノリで、
この曲をヒットさせたブラック・コンテンポラリー・ シーンを支えた伝説のシンガーを懐かしく思いながら演奏した思い出の曲。
演奏中、何か一点を真剣に見つめる彼の眼差しがとても印象に残っていた。
日本で再会した翌週に、バックドアに訪れた彼がやはりリクエストしたのはその曲。
演奏した後に二人で再会を祝った
俺と希さん。
ジャズのピアノを叩くと言う希さんとすっかり意気投合し、
ほろ酔い加減で思わず飛び出した愚痴?で、
それぞれ愛する相手は同性である事もわかり……w
色々な意味合いで、
仲間というネーミングを持っ
たウイスキー
『シンジケート58/6』
を飲みながら話してくれたのは、
さよならも言わずに置いてきてしまった初恋の人。
少年の時の純粋な恋を未だに負っている希さんの話は、
それは遠い国にいる届かぬ相手を思う俺の心を震わせた。
あの曲をリクエストする時の希さんの甘く憂えた横顔。
何年もそんな恋愛を抱えたまま相手を思っていた希さんの切ない気持ちが痛いほど伝わって来た。
「 なぁ、明日のライブでその曲やりたいんだけど 」
メンバーに話すとみんな一も二もなく大賛成してくれる。
「 じゃあ、それyoutubeにアップして日本で聴いて貰わないか?」
ケイの提案で動画の撮影の許可をクラブの支配人に取ろうということになった。
翌日、アレンジを加えて何回か音合わせをする。
相手の斗真さんにはまだ会ったことはないけど、希さんの一途な気持ちが実った事を心の底から祝いたい。
切なく響くメロディーラインを心のままに唄わせて、
俺たちは彼らの結婚を祝福した。
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Sweet Love
一人にしないで 私はこの恋を信じてる。
Sweet Love
甘い愛で あなたを決して離さない。
ずっと このまま
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サックスが奏でるこの思いを、
この曲と共に届け、
愛し合う美しい二人に!
☆☆☆☆
勢いで書いてしまった小話ですが、
書きながら、
この二人、斗真君と希君の再会のシーンを思いました。
どんな風に緊張して僅かな期待もして、
心が震えていたんだろう……
なかなか心が通じなかった二人。
相川雨音さんのお話の展開にグイグイ引き込まれながら、
ここで、
二人の結婚を一緒にお祝いできた事、本当に嬉しいです。
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