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第4話

今日はどれにしよう。 制服を脱いでワンピースを手に取り、鏡の前で合わせてみる。昨日は白だったから、今日は花柄にしようか。メイクはナチュラル?それともピンクで可愛い系? いつもの銀縁眼鏡を外して、フレームの大きいおしゃれ眼鏡をかける。色は黒にも見える濃紫が最新だ。ウィッグはもちろん黒のサラサラストレートロング。 全部、お手本はミオちゃんだ。 「うん、よし。」 鏡に映る、女の子の格好をした俺。 最初はメイクもヘアセットも下手くそすぎて吐き気がする出来栄えだったけど、最近ではそれなりに見られるようになった。 クルッと鏡の前でターンをすると、ふわりとスカートが揺れる。髪をポニーテールなんかにしても良かったかも。メイクはバッチリだ。 ニッコリ笑ってスマホで何枚か写真を撮り画像をロックすると、ワンピースを脱いでスキンケア用品を詰めた箱を抱えて風呂場へ直行だ。 クレンジングに洗顔、化粧水に乳液、パックまで余念はしない。ボディミルクもたっぷり塗って、手足のムダ毛は脱色して不自然にならないように。 今日の出来栄えは80点。 大河内にも、智瑛にすら絶対に言えない、秘密の日課。 俺のトップシークレットだ。 ─── 智瑛とキスも出来ないのは、もしかして俺が男だからなんじゃないか。 そう思い始めたのは半年ほど前。 可愛い女の子のミオちゃんに首ったけの智瑛だ。根っからのノンケに違いない。 男とキスするなんて考えられないのかも。だからデートにも行ってくれないのかも。 なら、女の子とならデートしてくれる?キスしてくれる? そう考えた俺は日々ネットでミオちゃんの画像や女の子のための雑誌でコーディネートやメイクを学んだ。メイクがより良くなるように肌を整え、スカートが醜くならないようにボディケアを始めた。 いつか智瑛とデートに行く時、智瑛が手を繋いでくれるように。抱きしめてくれたとき、男臭くないように。キスしてくれたとき、唇がガサガサでがっかりされないように。 夜更かしは肌荒れの原因だ。 俺は22時には布団に入り、智瑛におやすみとLINEする。作業に夢中であろう智瑛からの返事は待たない。 明日も俺は智瑛のために自分を磨く。たとえ智瑛が磨いているのはオタ芸だとしてもだ。

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