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『星の虚ろわざる夜にー黒翼堕天使の涙ー』
――星がまたひとつ、その使命を終え、堕ちた――。
流れ星が光り、そして消えるまでに願いをかけると、その願いは星の民に聞き届けられ、
叶えられるというのが、この世界での習わしだと言う。
――我らの生きる、この闇の世界を除いては――。
「許せ、同胞(はらから)たちよ。…私はもう、そなたたちの在るその世界へは
戻れないのだ…」
――小さく呟く――。
かつて自分が住んでいた、絶え間無く続く光の世界は、いつしか私を棄てた。
…いや、棄てられた。
―輝くように美しく真白かったその羽根は、一瞬にして闇と咎を背負った漆黒の翼へと
色を変えた。
――赦されぬ恋に、堕ちた―――。
◇ ◆ ◇
「…メメさん…?」
「…すまない、今戻るよ。少しだけ待っててくれ」
「どうしたんです?…今日の貴方は、いつにもなく沈んだ表情なんですね?」
「…そうかな?…ああ、そうかも知れないね」
「…貴方はまた…。そうして、私の前で無理なんかしないで下さいよ。…私はね、かつての
貴方を知っている唯一の存在なんですよ。…今更隠したところで、それは無駄というものです。貴方の事なら、私には何だってお見通しなんですから」
「おやおや。それは恐いねぇ…」
「ところで…私の質問には答えて下さらないんですか?」
「…どうした?」
「ですから、今日の貴方はいつにもなく…」
「…流星を、見ていたんだ」
「流星…ですか」
「ああ。…また一人、私の仲間が居なくなった」
「仲間…ですか?」
「そう。…星は、かつての私の仲間だ。…星は、長い年月をかけてたった一人で輝き続け、
そしてその最期には、太陽をも凌ぐ程の目映い光を放つ。…しかし、消える時はほんの一瞬だ。…ねえ、ジズ」
「なんですか?」
「…君は、星の一生を見届けた事があるかい?」
そうメメに尋ねられたジズは、緩く一呼吸をおいて、静かに言葉を繋いだ。
「ありますよ。…随分と遠い昔でしたが、一度だけ。…真昼の太陽が輝くその横で、月よりも小さな光が太陽に負けじと大きな光を放って…それはとても異様な光景でした」
「…君も、そう思ったのかい?」
「ええ。…貴方は違うんですか?」
「…私は…」
そのままメメは言葉を濁して、俯いた。
「…寂しいですか?」
さりげないジズの言葉が、メメの心を緩やかに解す。
「仕方あるまいよ。…それが…我々『星天使』の一族の宿命なのだから…」
ぽつり、と呟くメメの顔は儚く、そして白い。
そんな彼の悲哀に満ちた表情に気付いたジズは、ゆっくりとメメの美しい顔を見下ろして、
その唇に優しく触れる――。
「…ジズ…?」
「…貴方は…堕ちてしまった身でありながら…それでも未だに星天使の一族としての高貴さは、捨てていないんですね」
「腐ったプライドだと言っても構わないさ。…私は…」
「解っています…」
こんな些細な会話も交わしつつ、再びジズがメメの唇に優しい接吻を与える。
「……っ…」
「…嫌…ですか?」
「…私を…慰めてくれると言うのか?」
「…貴方さえ良ければ…」
「……ジズ」
「…もちろん、無理強いはしませんが」
「…ジズ…私を…」
「…解っています」
「……ああ」
そう言ったジズがメメを優しく抱き留め、そしてゆっくりとその身体を横たえていく。
「…っ…ジズ…」
「大丈夫ですよ。貴方に不安を与えるような事はしません」
「…そう…だね……」
そう言いながら、まるで壊れ物を扱うかのように、ジズはメメの着衣を外した――。
◇ ◆ ◇
「…ああ…ジズ……」
ゆっくりと落ちてくるジズの熱をその身体に受けながら、メメは高揚した感情に乗せて、そのの背中の翼を具現する。
「…相変わらず美しいですね。あなたの翼は」
「…そうだろうか……」
「ええ。とても…美しいですよ…」
感情の高揚によって具現したメメの漆黒の翼を、ジズは緩やかに唇でなぞりながら、啄むように接吻を落とす。
「…っう……!」
そうして導き出される身体の奥の甘い疼きに、メメの細身の体躯が、しなやかな波を打つように捩る。
「…メメさん…?」
「…大丈夫、だから…このままで……」
「…そうですか。……では…」
まるで囁くようなその言葉の後、ジズも自分の着衣をすべて外し、緩やかに立ち上るメメの熱を感じ取るようにゆっくりと、その懐の中に向かって自分の身体を沈めていく。
「……は…っ……ぅ……」
メメの切羽詰まったような声が、ジズの耳を掠めて落ちる。
それはメメ自身が、ジズに自分の心の全てを許している証明でもある。そしてその強い赦しの想いこそが、メメがあの遠い天(そら)より堕天した、最大の理由でもあったのだ。
かつて『星天使』と呼ばれていた頃から、メメの具現する白い翼は一族の中でも特に美しいと言われていた。
真白く輝くその翼は陽光を浴びて、まるでその身に露でも纏ったかのように、見事な光を放つ。…かつてジズは、そんなメメの真白き翼に、憧れに等しい想いを抱いていた。
しかし今、彼の翼は終わりの無い闇のように、黒く染まってしまった。
それでもジズが、そんなメメの黒い翼を見て以前と変わらず美しいと言えたのは、やはり彼自身の持つ「神官」という地位と、その身に纏った高貴な雰囲気のせいなのだろう。
「……ぁ…ああ……っ……!…」
程無くして、溜め息のような声と共に、メメは小さく身体を震わせてジズの身体に疼いた熱を放出した。そしてまた、その瞬間を分かち合うようにしてジズ自身もメメの身体の奥深くに向かって、全ての熱を放出したのだった。
「…メメさん…。愛しています……」
「…ジズ…有難う……」
――そう言って……メメは一筋の涙を静かに流した――。
『星の虚ろわざる夜にー黒翼堕天使の涙ー』
ーfinー
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