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第6話
「おかえりなさい…透さん…」
胸の中で呟いた律儀な挨拶に胸が苦しくなる。
背中に回った腕に何故か安堵し、尚之の匂いを思いっきり吸い込んで更に強く抱きしめた。もうこんな風に抱きしめることは出来ないかもしれないと脳裏を掠める。
離したくない。離れたくない。
コツンと背中に異物が当たり、尚之が何かを握り閉めていることに気づく。
ふと目の前を見ればテレビ画面いっぱいにイケメンが少し口を開いたまま止まっている。
なかなかのイケメンだ…
そして人の気配を感じない部屋をもう一度見渡す。
そこには誰もいない。ソファにもダイニングにも、リビングの隣の開け放たれた寝室にも。
甘ったるい声の男はどこにもいない。
これはどういうことかと首を捻る。
「…尚之…これは…」
一人でバニーガールのコスプレをしていたの…か?
意味が分からず、へばりつく尚之の身体をゆっくりとひき剥がし、その表情を伺う。
まだ赤らめたままの顔はそれでも上目遣いでしっかりと視線を合わせてくれる。
何がどうなっているのか、意味が分からない透は尚之の言葉を待った。
「…今…お仕事戴いてるクライアントに…ハロウィン用の試作ゲームを頂いたんです…」
そう言ってまた胸元にポスっと顔を埋めた。
ハロウィン用試作ゲーム…
それとバニーガール姿とどう関係あるのか。
「透さん…帰ってこないって思ってたから…試作ゲームとバニーガールの服頂いたので…ハロウィンだから…」
意外な答えに透はポカンと口を開け間抜けズラで尚之を見つめた。
取り敢えず整理してみようと覚醒した意識を張り巡らす。
クライアントに試作ゲームとバニーの衣装を貰い…一人でコスプレしながらゲームをしていたということか?先程違和感を感じた尚之の掌を見ればリモコンを握りしめている。嘘ではないらしい。
透がいない毎日をどう過ごしているのか…そればかりが気になり鬱陶しいだろうと思うくらい必要以上にメールを送り続けてきた。
こんなことを…尚之が?信じられない想いと、例えゲームでも甘い声の男と尚之が笑い合っていたことに妬けて嫉妬し、尚之を疑ってしまったことにガグリを肩を落とした。
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