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呼び名の話

「…呼び方」 「そう、やっぱりたまには違う呼び方してもいいと思うよ〜」 野沢先輩がからかってそう言っているのは分かってる。でも、俺は真剣に考えてしまった。 …遼介は、俺のことを「つーくん」って呼んでくれてる。 それはもう、最初から。つまり俺が生徒会室の床に何故か寝そべっていた遼介を発見した時からずっと。 未だに謎なんだけど、あの時なんで床に寝てたんだろう。 そんなことを考えて、生徒会室に着いた。 今日は遼介が忙しい日らしくて、野沢先輩が迎えに来てくれていた。そこまでしなくても、と思うけどちょっと嬉しいのもある。 「遼介〜鼓くん連れてきたよー」 「変な入れ知恵するな」 俺達が入って、開口一番に言ったのがこれだった。びっくり、はしない。したのは野沢先輩の方。 「盗聴したなこのストーカー!!盗聴器どこに付けてんだ!」 「別にお前のことストーカーしてる訳じゃない。つーくん公認のストーカーなんだから」 「鼓くん本当にこの変態ストーカーがいいの?!常に監視されてるよ?!」 「愛故ですよね。嬉しいです」 「ダメこのカップル!世間一般を知らなさ過ぎる!」 野沢先輩は取り敢えず放置して(酷いかな?)、書類に向き合う遼介の元へ椅子を引き摺って向かう。 隣に座ると、遼介が書類から目を離しとろりとした目で俺を見た。 …………甘い。 「つーくんは、俺の事違う呼び方してくれるの?」 「変な入れ知恵じゃないじゃん!期待してるじゃんか!」 「詩帆うるさい」 「えっと、候補はあるので呼んでみていいですか?」 「どうぞ」 ニコニコと笑う遼介。俺もニコニコ笑う。 そこに爆弾を落としてみた。 「りょーたん」 「……」 何も言わない。聞こえなかったかな? 「りょーたん」 あれ、動かない。 「りょーた「鼓くん鼓くん、それ多分死んでる」……」 え、 遼介を見ると、確かに笑顔のまま固まっていた。 メデューサ思い出した。 俺は固まっているのをいいことに、適当に遼介のことを呼んでみる。 「りょーちゃん」 「生徒会長」 「会長様」 「おにーちゃん」 「おにぃ」 「あなた」 「ハニー」 まだまだあるから言おうとしたけど、野沢先輩に止められた。 「本気で遼介死ぬから」 「……遼介、今の中で一番良かったのはどれですか?」 「……………………おにいちゃん」 なんでよりによってそれを選んだのだろう。 その後数日間、俺が遼介のことを「おにいちゃん」と呼び続けたことで、周りが“あの二人は禁断の恋をしている”という噂が流れた。 fin.

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