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第20話

 部屋だけでなく旅館そのものが静まりかえっていて、廊下を歩く自分の足音がやけに大きく聴こえ少しばかり不気味だ。これでもうひとつ足音が重なれば、冗談ではなく逃げ出してしまうかもしれない。  びくびくとしながら周防は露天風呂までの道を進んでゆく。  この旅館の露天風呂は入り口と脱衣場こそ男女別に分けられているが、風呂自体は岩で隔てりがあるもの奥に進むと混浴になっている。  大浴場で湯を楽しんだ後、西園寺と連れだち露天風呂にも足を運んでみたもの女性のすがたを見かけ、周防が恥ずかしいからと夕方の入浴時は断念した。  けれど夜中に入浴する女性など殆んどいないだろう、そう思い立つとここぞとばかりに西園寺は露天風呂に向かったのではないか。  それならひと声かけてくれてもよかったのにと、周防は歩きながらひとりごちる。とはいえ彼のことだ、気持ちよく眠っている恋人を風呂ごときで起こすような男ではない。  無神経な自分であれば間違いなく起こすだろうと周防は苦笑した。    さらさらと流れる水の音。日中とは違い静寂に響く温泉の音色に耳をすませて、ふうと安堵のため息をつく。温泉旅行など遠い昔に家族と一度訪れたくらいか、少なくとも周防にとっては馴染みの浅い場所だった。  しかしながらリラクゼーションというのか、心身ともに緊張が柔らぎ穏やかな気分だ。それもこれも西園寺の優しさと気遣い、連れてきてもらえてよかったと心から思う。  ガラス戸を引き脱衣場に入り辺りを見渡してみる。浴衣など私物はロッカーに預けるので確認できないが、露店風呂につづく内扉のまえにスリッパが一足ならぶのを見つけた。

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