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第45話

 欺かれ裏切られていたことに対するショックよりも、むしろ今は騙されたことによる妙な気持ちの高ぶりのほうがつよく、性的興奮にも似た復讐心が周防を支配する。  過度のアドレナリン分泌でハイとなった今、すでに周防は西園寺の心を取り戻すという考えは毛頭なく、これからどうやってふたりを追いつめてやるかのほうが重要だった。  腕を組み店舗からふたりが出てきたのを確認すると、つかず離れず一定の距離を取り周防は追跡を開始した。昼食を自宅で取ろうというのか、夫婦仲良くモール内のスーパーに入っていく。  カートに買い物かごを乗せ、それを西園寺が引き店内を回る。周防と食材の調達にいったときは、一度とカートを引くことも買い物袋を持ってくれたことさえない。  周防とて男だ西園寺の気持ちは分からなくもない。男がスーパーで買い物かごを持ち追従するのは気恥ずかしく、ねぎや大根のつき出たスーパーの袋を提げ歩くのはみっともない。  今は自炊する男も増え、従ってひとりで買い物することも珍しくはない。けれど西園寺はそのタイプにあらず、つき合ってもらえるだけ有り難いと周防は勝手に納得をしていた。  だがふたを開ければどうだ、妻を労わるよき夫ではないか。ふたりに見つからないよう商品棚の陰に隠れながら周防は思う、幸せな顔をしやがってふざけるなと。  缶詰を手に妻へ笑顔を向ける西園寺。妙なテンションは変わらないが、それに沸々と怒りと憎しみが加わりはらわたが煮えくり返る。

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