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第64話

 水緒につられ二時間ほどうとうと眠りに落ちていたが、目が覚めるとベッドから抜けだし着衣を整えると屋敷を後にした。  水緒の話によれば、離婚に向け友人のつてを頼りに弁護士と相談したそうだ。離婚の材料となる証拠がひとつもなく、唯一浮気の証拠とされるのが夫の友人が発した言葉では弱いと言われたが、少しずつ解決していきましょうとその場は終わったそうだ。  ただ実際に夫と別れるとして、その後ひとりになって自分に何が残るかと想像すれば怖くなってしまい勇気が持てなかったと、涙ながらに心の裡を周防に話した。  けれどもう迷いは消えたと、夫に依存していては人生を詰む結果になってしまうと、周防と話しているうちにようやく気づく。皮肉にも浮気相手をまえに目が覚めるのもおかしな話だが。  明日から行動に移すと決心した水緒のため、約束どおり周防は物的証拠を集め渡そうと西園寺とのlineのやり取りをPCに転送コピーし、時系列順にファイリングしておく。  あとは店長や西園寺と共通の友人や知り合いなどに根回しを済ませ、どんな結果になろうと責任を取り償う旨を言葉に残した。  多くは周防と西園寺がつき合っていたことを知らず、まさに寝耳に水といった状態で驚かれた。けれど妻に対する償いの姿勢は評価に値したようで、周防に同情的な意見を得ることができた。  証拠のファイルを店長に預けるとアパートに戻る。  なにも知らないのは西園寺のみ。明日から彼に待っているのは地獄だ、せいぜい今のうち幸せな夢でも見ていろと、リビングの床で熟睡する男をソファに座り見下ろした。

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