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第20話

「はい。どちら様でしょう」 『俺だけど』 「──一大」  インターホンから届く声、テレビカメラに映るのは遥希の幼馴染であり恋人未満でもある男、須原 一大だった。  インターホン越しではあるが一大の声を聞き身体の心が痺れる。けれどそれと同時に遥希は心が修羅場となった。この状況は非常に不味い。玄関に龍哉がいるからだ。  狼狽えるもの平常心をよそおうと、遥希は「少し待って」と一大に断わりをいれ急ぎ玄関に向かう。そして龍哉に「黙って部屋に戻って下さい」と耳打ちして連れ戻す。 「訳は後で話します」と伝えると、問答無用で龍哉をクローゼットに押し込んだ。 「待たせてごめんね。どうぞ、あがって」  押しかけ客の対処として、セキュリティ面を考慮したオートロックのマンションを選んだのが幸いして、龍哉と一大が鉢合わせる事態にならずに済んで胸を撫で下ろす。  営業先から直帰したのだろうか、紺のスーツに身を包む一大が「急に悪いな」と遥希を見るなり謝り、靴を脱ぐとリビングに向かう。 「今日はどうしたの?」  ソファに腰を下ろす一大に遥希が訊ねる。平素をつくろってはいるが、寝室のクローゼットには龍哉が隠れているのだ、声が震えないか態度に出ないかと内心冷や冷やだ。  そんな遥希の焦燥には気づいていないようだ。少しばかり深刻そうな表情をした一大、遥希の顔をじっと見つめると重い口をひらく。 「……悪い。別れてくれ」  気まずそうな彼の態度から嫌な予感はしていたが、まさか開口一番で別れ話をされるとは思ってもみない遥希。先ほどの狼狽(ろうばい)など吹き飛んでしまった。  申し訳なさそうな一大の顔から目が離せないでいる遥希、ようやく視線を外すと思ったままを彼に問う。 「会社の子?」 「ああ。上司の娘で俺の部下」  ながい沈黙とすれ違う心、重い空気がふたりを包む。  小さくため息をつくと、遥希は「そう」と短く了承する。色を失った遥希の表情から目を逸らすことなく、龍哉は「今度さ、結婚するんだ」と追い打ちをかけた。

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