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両片想い18
【壮馬は私たちの宝物です。これまで大切に育ててきました。あまりに大切にしすぎたせいで、少々ワガママなところはありますが白鷺先生、よろしくお願いしますね】
不意に頭の中に流れてきた、壮馬のご両親のセリフ。
父親に見捨てられた俺と違い、壮馬は親にとても愛されながら育てられている。だからこそ、この関係を崩すようなことがあってはならない。
俺のせいで、アイツに不幸を背負わせては駄目なんだ。
心に燻る壮馬への気持ちは、無言を貫いてなきものにした。ただ強請られたときだけ、心の奥底に秘めている想いを告げる。それくらいは許されるであろう。
「ルームサービスで頼んだ赤ワインよりも、鉄平の顔のほうが赤いのはどうして?」
バスルームでシャワーを浴び終えた俺にかけられた、開口一番の言葉。
テーブルに用意されている果物やツマミを食べながらワインを飲んでいた恋人は、すでにできあがっているように見えた。
「シャワーを浴びたからだ。お前、ハイペースで飲んでるだろ」
(着心地のよいバスローブを見にまとっているから、さっきのような醜態を晒すことはないはず――)
「なぁ、一度聞いてみたかったんだけど」
シャワーを浴びる前のみっともない自身の恰好を思い出していると、えらく低い声で訊ねられた。
「なんだ?」
「ヤってる最中、名前で呼ばれるのと課長って呼ばれるの、どっちがいいのかなぁってさ」
「課長に決まってるだろ。名前呼びは、あまりしてほしくない」
本音は名前で呼ばれたほうが嬉しいのに、それが言えないのがつらい。
「だったら先生は?」
「ありよりのあり」
ややふざけ気味に返しながら、空いてるグラスにワインを注いだ。
「そうなんだ。教え子に襲われるって思いながら感じたいから?」
「お前なら、そういうプレイが好きだろうなと思った。ただそれだけ」
グラスの中でワインを回してから、喉を潤す程度に流し込む。赤ワインの酸味と渋みが、ちょうどいいバランスに感じられた。
「課長は何をしても、様になるからいいよな。俺が同じことしても、ぜーんぜん格好よく決まらない」
俺の真似をして、同じようにグラスの中にあるワインを回してみせる壮馬。揺らし方が不安定なせいで、子どもがふざけてやっているような感じに見えた。
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