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両片想い42
「課長、大丈夫ですか? 顔が赤いですよ~!」
「そういうおまえこそ、ギンギンになってるモノを、さっさと何とかしろ!」
言うなり、バタンと大きな音で閉じられた扉。静寂が俺たちを包み込むと思っていた、その矢先だった。
「やれやれ。そこで俺たちのことを見ていた人、いったいどこのどなたなんですか~?」
後方にいる俺に向かって、社長の息子が問いかけてきた。
(――なんでバレたんだ? 音だって出さずに、中に入り込んだというのに)
「バレてないと思ってるのは、課長とアナタだけですよ。俺がこの会議室に入ったすぐに、後ろの扉が開くのを見ていますからね」
「……俺がここにいるのを知っているのに、どうしてあんなことをわざわざしたんだ?」
隠れ続けるのは無理だと判断し、立ち上がりながら質問を投げかけた。
「石川さんだったのか、残念」
俺の姿を恨めしそうな目で見るなり、あからさまにウンザリした表情を浮かべる。
「俺以外の誰だったら良かったんだ?」
「隣の課にいる、派遣社員の女」
「ことあるごとに、白鷺課長相手にちょっかいを出してるからだろ?」
「まぁね。他にも理由はあるけどナイショ」
パイプ椅子に座ったまま顔を逸らしながらまぶたを伏せて、何もない床を意味なく見続ける、社長の息子の前に立ってやった。
「石川さんの狙いは課長でしょ。部署に戻れば? 俺はもう少し、このままでいなきゃいけないんだけど」
「大きくなってるソレ、俺が気持ちよくしてヌいてやろうか?」
カタチが変わっている部分を凝視して告げた途端に、驚きに満ち溢れたまなざしが俺の顔を捉える。
ちょっとだけ開けられた口元が何かを言ったみたいだったけど、声にならないせいでまったく分からなかった。
「何を言ってるんだって顔をしてるね。すべての人間が、君が恋焦がれる白鷺課長を狙ってるなんて思わないほうがいい」
嘲笑うように言いながら、震える唇にそっと触れた。少しだけ荒れた唇はとても柔らかくて、今すぐにでもキスしたくなる感触だった。白鷺課長が、貪る感じでキスする気持ちが理解できる。
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