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抗えない想いを胸に秘めたまま、おまえの傍にずっといたい14
怒った女性が耳たぶを掴んでいた手を使って、青年の腕を揺さぶりながら返答を促す。するとベニーを見つめていた青年の瞳に、嫌な鋭さが宿った。
その様子でなにかされると瞬間的に思いつき、いつでも飛びかかれるように俺が身構えたというのに、ベニーは真正面から青年の視線を受け続ける。
余裕のある態度が面白くなかったのか、青年はどこか仕方なさそうに話しかけた。
「そんなにそのネコ、大事なんですか?」
「大事ですよ。本来ならこの子を弓で狙った君に報復するところですが、争いを好みませんので、手は出さないであげます」
即答したベニーは、冷ややかな微笑を唇に湛える。妙な面持ちに違和感を覚えたのでまじまじと見つめたら、ベニーの瞳が赤く光ったので心配になり、小さく鳴いてみせた。
「にゃぁ……」
「先輩大丈夫です。私は先輩のように、好戦的ではないですから」
「変なネコの名前!」
「キース!!」
女性の問いかけを無視した青年は、ベニーが指をさした場所へ、さっさと身を翻して行ってしまった。
「申し訳ございません。いつも注意しているんですけど」
「凛花さん、彼が普段はあのような失礼な態度をとらないこと、ご存じなんじゃないですか?」
「そんなことないです。職場が変わるたびに気に入らない相手に対して、キースから食ってかかるものですから、苦労させられています」
弱りきった女性の表情に、ベニーはふむふむと何度も頷き、諭すように語りかけた。
「きっと、ヤキモチを妬いたのでしょう。他の人が凛花さんと親しくしているのが、彼は嫌なんだと思います」
まるですべてを見知ったかのように語るベニーに、女性はもの悲しそうな顔をした。このまま泣き出してしまうんじゃないかと焦る俺を他所に、ベニーは穏やかに口を開く。
「貴女方がこの世界に転移させられた理由は、ご存じですか?」
「なにも言われておりません。突然命令が下ったんです」
きょとんとした様子で答える女性に、ベニーは憂鬱な影を頬のあたりに漂わせながら説明する。
「私がいるからですよ。自分を想う見守り人を散々利用し罰を受けさせるという、つらい目に合わせた私がいるから……」
両手を握りしめる感じが、こわばった肩の動きで伝わってきた。普段見せることのないベニーの顔つきを間近で凝視してみた。
「そのことについては、噂で耳に入ってます」
「そうでしたか……」
「キースに私が同じようなことをしたらどうするかを、聞いてみたのですが――」
「素直じゃない彼にそんなことを問いかけても、本音を話さないでしょうね」
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