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抗えない想いを胸に秘めたまま、おまえの傍にずっといたい16

「に゛ゃにゃあぁー! うるにゃあぁあっ!」(なにやってんだよ! 猫の俺におまえを守らせるとか信じられねぇ! いつもの銛を出して戦いやがれ)  そんな気持ちを込めて鳴き叫んでやった。 「先輩、煩いですよ」 「相変わらず口数の多いヤツだな」  深いため息をついたベニーがやっと振り返り、黒ずくめの男と対峙する。闇に紛れるような漆黒の服に身を包んだ男は、てのひらから音もなく炎を灯し、辺りをほんのりと明るく照らした。  不思議だった。はじめて見た小さく燃え盛る炎を見てるだけで、恐怖心が身体を支配し、震えが止まらなくなる。 「学年主任、先輩が怖がっているのでやめていただけませんか?」  ベニーの後頭部に隠れながら身を縮こませていたら、大きな手が背中を撫で擦る。落ち着かせるためにやっていることはわかるが、黒ずくめの男が照らす炎がどうにも怖くて、落ち着くことができなかった。 「最期は笑って消されていたのに、やはり恐怖していたんだな。好きなヤツの前では、格好つけたがりだったのか」 「…………いい加減にしてください」  俺の背中を撫でていた手が離れた瞬間、光り輝く銀色の銛が握られる。ベニーの重心が下がったことで、銛が投てきされることを悟った。 「そんな軟弱な武器で、俺と戦えると思ってるのか?」 「隙くらい作る時間があると思いまして」 「隙を作る? どうやって?」  俺が気づいたときには、黒ずくめの男はすぐ傍にいた。驚きのあまり目を見開いて固まったまま動けずにいると、俺に顔を近づけてわざわざ瞳を合わせるなり、にっこりと微笑む。 「ベニー・ロレザス。反撃はどうした?」 「くっ……」  ベニーが攻撃しないことを不審に思い、視線を下げて銛を持っている手元を見たら、男が身につけている黒手袋がベニーの手首に触れていた。手首を掴んでいるんじゃなく、ただ触れているだけだというのに、ベニーはぴくりとも腕を動かすことがなかった。 「おい。俺から目を離すなんて、随分と余裕があるな」  黒ずくめの男の声になぜだか身体が反応して、自然と頭を上向かせられる。目の前にある男の瞳は白目がなく、底なし沼のような見えない嫌な黒い色をしていた。見たことのない異様な瞳に見つめられるだけで、息が止まりそうになる。 「先輩には手を出さないでください。お願いします……」  懇願するベニーの声が震えていた。黒ずくめの男に抗うために、力を出しきってしまったからか。それとも恐怖心から震えているのかはわからない。 「出すわけないだろう。これからも働いてもらうのだから」 「ということは、これからも狩りに先輩を連れて行けという命令でしょうか?」 「あのふたりがくっつくか、まだハッキリしない。念には念を入れる」

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