294 / 332
新たなる挑戦8
***
車内に響く卑猥な水音に、宮本は眉をひそめながら、いつも以上にハンドルを両手で握りしめるしかなかった。
「よっ、陽さん、もうやめないとっ! 危ないですって」
宮本が運転中だというのに、突然はじまった遠慮のない行為。自分の下半身にむしゃぶりつく橋本に向かって懇願しても、まったく聞く耳を持たずに、じゅぷじゅぷとわざと音を立てながら、感じやすい先端を狙って執拗に舌を絡める。
「運転中なんですよ、はあぁっ…気持ちいぃっ」
「俺なりの誠意を示しているんだけどさ」
「誠意の示し方がおかしいですって。しかもなんでこのタイミングっ……、んあっ!」
宮本は思わず一瞬だけアクセルを踏み込んでしまったが、前方に車がいなかったこともあり、挙動不審な動きをするインプは、誰の目にも止まらなかった。
「あぶっ、危なぃっ……ってば!」
「バケットシートで、躰が逃げようのない雅輝にとっては、もどかしさが快感に繋がってるだろ」
「そんなことなぃっ!」
「そんなことあるね。いつもよりギンギンになってるのはどうしてだ?」
痛いところを橋本にずばっと突かれたせいで、宮本は顔を真っ赤にしたまま、うっと言葉を飲む。昨夜散々いたしたというのに、引きずり出された快感に抗うことはおろか、このまま橋本によってイカされたいと思う自分もいた。
「陽さんっ、も、気持ちいいんだからっ! ヤバいですって」
「ほうか、ヤバいのか。大変らな」
「陽さんってば、うンンッ!」
宮本はもどかしさをやり過ごすために、ハンドルをばしばし叩きながら、視線を前方に走らせる。血まなこになって停車できる場所を探しまくった。
「く~~~っ、我慢ガマンがまんっ!」
「わっ!」
宮本がインプのアクセルを一気に開けて、車体をドリフトさせながら対向車線に進路変更した反動で、橋本の口から宮本自身が外れた。
派手なドリフトをかましたせいで、環状線にスキール音が鳴り響く。そんな音を耳にしているのにもかかわらず、慌てて下半身にかぶりつこうとする恋人の動きを読んだ宮本が、橋本の頭を鷲掴みする。
「陽さん、ちょっと待って!」
「待たねぇ! させろよ」
前を見据えたままでいる宮本の我慢は限界だった。環状線から住宅街に向かう脇道に向かって、インプを必死に走らせる。しかしギアチェンジするのに、橋本を掴んでいる左手を外さねばならない。
「陽さんお願いだから、このままでいて!」
宮本の必死のお願いに、橋本は「だったら、1分だけ待ってやる」などという信じられない返事をした。
「1分だけとか鬼畜~っ!」
「雅輝ならできるだろ。だって雅輝だし」
生ぬるい返事をした橋本は宮本自身を手にしたまま、腕時計でちゃっかり時間を計測する。
「う~~~っ、峠のバトルより難易度が絶対に高いって!」
一時停止しつつ走行しなければならない住宅街の脇道の中から、1分以内で駐車できる場所を探すミッションに、宮本は涙目になりながらも、いい場所を見つけてそこにインプを停めることに成功した。
火照りきった下半身をそのままに、安堵のため息をついてギアをニュートラルに入れた瞬間に、橋本の口にぱくっと食べられる。
「うくっ!」
「まっしゃくひかんひったりにいんふをちゅうひゃするなんて、きようなことしやがりゅ」
(まったく時間ピッタリにインプを駐車するなんて、器用なことしやがる)
橋本は上手にしゃぶりながら、独り言をつぶやいた。ただ口でされるだけじゃなく、独り言を呟くことによって、絶妙なタイミングで自身を吸い上げられるため、宮本は気持ちよすぎてイキたくてたまらなくなる。
「ああ、もぉ陽さんってば、敏感なところを狙って、舌を動かさないでくださいよぅ」
「遠慮せずにイケよ、ましゃき」
さっきまでは運転に集中していたせいで、快感がそこまで得られずにいた。だけど今は音をたてながら執拗にねぶられるので、どうにも我慢できない。
「あっあっあっ、イクっ…ンンッ!」
ぶるりと躰を震わせて絶頂した宮本の顔を見つつ、橋本は口内で精液をしっかり受け止めながら飲み込んだ。
「陽さん…もう出ないのに、しつこくちゅーちゅー吸わないでよ」
「……昨夜俺の中で何度もイったはずなのに、どうしてこんなに濃いモノが勢いよく出るんだ雅輝」
渋々口から宮本自身を解放した橋本が、膝元からジト目で宮本の顔を見上げた。
「うっ、そっ…それは、むうぅ」
視線をあちこちに這わせて困ったふうを装う恋人に、橋本は大きなため息をついてみせた。
「まったく! 勝利の余韻やら、いきなりの口撃におまえが感じただけだろ」
宮本の下半身から躰を起こし、自分の席に戻った橋本が助け舟を出す。するとお返しをしてやろうと考えたのか、宮本は嬉々として助手席ごと橋本に抱きついた。
「雅輝、ストップだ!」
「え~っ、ここからがいいところなのに」
「どこがいいところなんだ。おまえはこんなところで、ナニをしようとしてる?」
「ナニって、陽さんを気持ちよくさせようと思ったんだけど」
「そんなことをここでしたら、おまえの大事なところをへし折るからな!」
空中でなにかを折る仕草をした橋本の顔は、街灯の灯りを受けているせいか、二割増しに恐ろしく宮本の目に映った。慌てふためきながら運転席に戻る。
「俺を抱きたかったら、とっととインプを発進させればいいだけだろ」
「確かに! ベッドで美味しくいただきますからね!!」
腕を組みながら正論を言った橋本の言葉に、宮本は瞳を輝かせながらアクセルを勢いよく踏み込んだ。ちなみに下半身は露出したままである。
橋本をベッドで抱くために、自宅に向かって急ぐ宮本の真面目な顔と、下半身丸出しのミスマッチな姿に橋本は笑いだしそうになったが、あえて指摘せずに助手席から眺めた。
どんな格好でも愛おしく思える宮本と一緒にいられることに、しっかりとした幸せを感じることができたのだった。
おしまい
ともだちにシェアしよう!