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新たなる挑戦8

***  車内に響く卑猥な水音に、宮本は眉をひそめながら、いつも以上にハンドルを両手で握りしめるしかなかった。 「よっ、陽さん、もうやめないとっ! 危ないですって」  宮本が運転中だというのに、突然はじまった遠慮のない行為。自分の下半身にむしゃぶりつく橋本に向かって懇願しても、まったく聞く耳を持たずに、じゅぷじゅぷとわざと音を立てながら、感じやすい先端を狙って執拗に舌を絡める。 「運転中なんですよ、はあぁっ…気持ちいぃっ」 「俺なりの誠意を示しているんだけどさ」 「誠意の示し方がおかしいですって。しかもなんでこのタイミングっ……、んあっ!」  宮本は思わず一瞬だけアクセルを踏み込んでしまったが、前方に車がいなかったこともあり、挙動不審な動きをするインプは、誰の目にも止まらなかった。 「あぶっ、危なぃっ……ってば!」 「バケットシートで、躰が逃げようのない雅輝にとっては、もどかしさが快感に繋がってるだろ」 「そんなことなぃっ!」 「そんなことあるね。いつもよりギンギンになってるのはどうしてだ?」  痛いところを橋本にずばっと突かれたせいで、宮本は顔を真っ赤にしたまま、うっと言葉を飲む。昨夜散々いたしたというのに、引きずり出された快感に抗うことはおろか、このまま橋本によってイカされたいと思う自分もいた。 「陽さんっ、も、気持ちいいんだからっ! ヤバいですって」 「ほうか、ヤバいのか。大変らな」 「陽さんってば、うンンッ!」  宮本はもどかしさをやり過ごすために、ハンドルをばしばし叩きながら、視線を前方に走らせる。血まなこになって停車できる場所を探しまくった。 「く~~~っ、我慢ガマンがまんっ!」 「わっ!」  宮本がインプのアクセルを一気に開けて、車体をドリフトさせながら対向車線に進路変更した反動で、橋本の口から宮本自身が外れた。  派手なドリフトをかましたせいで、環状線にスキール音が鳴り響く。そんな音を耳にしているのにもかかわらず、慌てて下半身にかぶりつこうとする恋人の動きを読んだ宮本が、橋本の頭を鷲掴みする。 「陽さん、ちょっと待って!」 「待たねぇ! させろよ」  前を見据えたままでいる宮本の我慢は限界だった。環状線から住宅街に向かう脇道に向かって、インプを必死に走らせる。しかしギアチェンジするのに、橋本を掴んでいる左手を外さねばならない。 「陽さんお願いだから、このままでいて!」  宮本の必死のお願いに、橋本は「だったら、1分だけ待ってやる」などという信じられない返事をした。 「1分だけとか鬼畜~っ!」 「雅輝ならできるだろ。だって雅輝だし」  生ぬるい返事をした橋本は宮本自身を手にしたまま、腕時計でちゃっかり時間を計測する。 「う~~~っ、峠のバトルより難易度が絶対に高いって!」  一時停止しつつ走行しなければならない住宅街の脇道の中から、1分以内で駐車できる場所を探すミッションに、宮本は涙目になりながらも、いい場所を見つけてそこにインプを停めることに成功した。  火照りきった下半身をそのままに、安堵のため息をついてギアをニュートラルに入れた瞬間に、橋本の口にぱくっと食べられる。 「うくっ!」 「まっしゃくひかんひったりにいんふをちゅうひゃするなんて、きようなことしやがりゅ」 (まったく時間ピッタリにインプを駐車するなんて、器用なことしやがる)  橋本は上手にしゃぶりながら、独り言をつぶやいた。ただ口でされるだけじゃなく、独り言を呟くことによって、絶妙なタイミングで自身を吸い上げられるため、宮本は気持ちよすぎてイキたくてたまらなくなる。 「ああ、もぉ陽さんってば、敏感なところを狙って、舌を動かさないでくださいよぅ」 「遠慮せずにイケよ、ましゃき」  さっきまでは運転に集中していたせいで、快感がそこまで得られずにいた。だけど今は音をたてながら執拗にねぶられるので、どうにも我慢できない。 「あっあっあっ、イクっ…ンンッ!」  ぶるりと躰を震わせて絶頂した宮本の顔を見つつ、橋本は口内で精液をしっかり受け止めながら飲み込んだ。 「陽さん…もう出ないのに、しつこくちゅーちゅー吸わないでよ」 「……昨夜俺の中で何度もイったはずなのに、どうしてこんなに濃いモノが勢いよく出るんだ雅輝」  渋々口から宮本自身を解放した橋本が、膝元からジト目で宮本の顔を見上げた。 「うっ、そっ…それは、むうぅ」  視線をあちこちに這わせて困ったふうを装う恋人に、橋本は大きなため息をついてみせた。 「まったく! 勝利の余韻やら、いきなりの口撃におまえが感じただけだろ」  宮本の下半身から躰を起こし、自分の席に戻った橋本が助け舟を出す。するとお返しをしてやろうと考えたのか、宮本は嬉々として助手席ごと橋本に抱きついた。 「雅輝、ストップだ!」 「え~っ、ここからがいいところなのに」 「どこがいいところなんだ。おまえはこんなところで、ナニをしようとしてる?」 「ナニって、陽さんを気持ちよくさせようと思ったんだけど」 「そんなことをここでしたら、おまえの大事なところをへし折るからな!」  空中でなにかを折る仕草をした橋本の顔は、街灯の灯りを受けているせいか、二割増しに恐ろしく宮本の目に映った。慌てふためきながら運転席に戻る。 「俺を抱きたかったら、とっととインプを発進させればいいだけだろ」 「確かに! ベッドで美味しくいただきますからね!!」  腕を組みながら正論を言った橋本の言葉に、宮本は瞳を輝かせながらアクセルを勢いよく踏み込んだ。ちなみに下半身は露出したままである。  橋本をベッドで抱くために、自宅に向かって急ぐ宮本の真面目な顔と、下半身丸出しのミスマッチな姿に橋本は笑いだしそうになったが、あえて指摘せずに助手席から眺めた。  どんな格好でも愛おしく思える宮本と一緒にいられることに、しっかりとした幸せを感じることができたのだった。 おしまい

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