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「似てますね」  理事長室に向かう道中、ゆるりと微笑みながら言われた言葉に胸が詰まった。あぁ、やはり、と立ち上る諦めに似た気持ちを断ち切り、へにゃりと笑う。 「そうでしょう?」  よく言われます、と続けると副会長補佐だという彼はそうだろうと頷いた。 「桜楠は黒髪でとてもきっちりしていてどこか近づきがたいオーラを放っているんですが…、なんというか、椎名君は桜楠がもうちょっと親しみやすくなった版って感じがします」 「あはは、アイツ補佐さんに迷惑かけてませんか?」 「全然!こっちがお世話になってますよ」  補佐さんは優し気な笑みを浮かべる。桜楠、というのは俺の双子の兄、桜楠 円〈おうなん まどか〉のことである。どうやら生徒会長補佐として補佐さんと一緒に励んでいるらしい。双子であるにもかかわらず円の名字が俺と異なるのは、彼が幼いころに叔父さん夫婦に引き取られたためだ。  ヤツの名字から分かるだろうが、その叔父さんというのがここの理事長である。桜楠学園は日本の経済を動かす大企業のお坊ちゃんは皆ここに入学するといっても過言でないくらいの名門校だ。俺の家も、父が死んで以降便宜上は(はたけ)さんが社長ということになっているがゆくゆくは俺が継がねばならない。そんな訳で少し遅くはなったが編入した、ということなのだ。円は初等部のころからずっとここに通っている。 「それはよかった。アイツは結構抜けてるから面倒見てやってください、補佐さん」  冗談交じりに言うと、補佐さんは「任せられました」と笑ってくれた。 「さて、ここが理事長室ですよ」  話している間についたらしい。きらびやかな校舎をどう歩いたか覚えていない俺は密かにため息をついた。こりゃ慣れるまでは大変そうだ。  補佐さんがトントン、と数回ドアをノックし、声をかけると、中から「どうぞ」と叔父さんの声が聞こえた。ドアを開けると、予想通り、とても豪華な内装で、少し身構える。俺は気取った家具が少し苦手だったりする。苦手、というかそれがそこにあることがすごくストレスになるのだ。補佐さん曰く生徒会室もかなり豪華ならしいので俺には生徒会役員は絶対に務まらないだろう。無論、生徒会役員選挙は5月とはいえ、役員はもうすでに内定しているので任せられるはずもないのだが。 「いらっしゃい、由くん。随分と久しぶりだね」 「ご無沙汰してます、理事長先生」  大人の笑みを見せる叔父さんに、俺はぎこちなく笑いかけた。

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