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発散?
言葉をそのまま反復する俺に二村はガシガシと頭を搔く。
「テメェ、碌に頭回ってねぇだろ。呆けやがって」
「ん……ぁ? あ、あー、はっさん、ね。はっさん」
軽い調子を努めて言うと、二村はますます顔を顰めた。話している間にも熱は高まる。ハッと息を零し自分をごまかす。背を丸めて腕を抱きしめる。まずい、堪えられない。
「……にむらぁ」
「……、」
「どう、しよう。にむら」
「チッ」
舌打ちとともに二村の腕が伸びる。覆いかぶさるように俺を抱きしめられる。二人分の体重にソファーのスプリングがぎしりと軋んだ。
「どうしたい」
「どう?」
俺の顔を自身の肩口で隠し、二村は問う。質問の意図が分からず戸惑う俺に、答えが返る。
「ここ触って気持ちよくなりてぇか聞いてる」
ここ、と二村は俺の下腹部を指さす。あまり触ったことのない場所。ぞくり。抗いがたい魅力に背筋が震えた。ぁ、と小さく声が漏れる。ぎゅうと二村の胸にしがみ付き、頷きそうになる首を無理やり横に振った。
「い、やだ」
「なりたくねぇ?」
「な、りたくない。やだ」
そうかと柔く零した二村は抱きしめた格好のまま俺ごとソファーに横になる。両足で俺の足を挟み込んだ二村は、宥めるように俺の背を撫ではじめた。膝から尾てい骨、背中から首へと何かが這い上がる。びくりと足が震えた。
「に、むら」
呼ぶなっつってんだろ、と噛みつきながらも「どうした」と二村は小さく答える。答えながら、二村の手は俺の背を擦る。逃げたくても二村の柔い拘束でもがくことしかできない。高めの声が喉から漏れる。
「やっ、にむら、ダメ。これダメ」
「……、うるせぇ。我慢しろ」
「怖いからぁ……!」
半泣き状態で首を振ると、二村はぴくりと手を止める。肩口から表情はうかがえないが、声だけでもなんとなく想像がつく。きっと渋面なのだろう。
シャツにしがみ付いとけ。
促されるままシャツにしがみ付く。先ほどよりもやや躊躇いがちな手つきで二村は俺の背を撫でた。相変わらず与えられる緩い刺激にビクビクと体が跳ねる。ダメだと止める俺に構わず、二村は宥めるように背を撫でる。子供をあやすような仕草がじわじわと俺を追い詰める。刺激から逃げようと、無意識に背中が反った。まずい。なにか変だ。
「ひ!? あッ、まっ、にむらッ」
制止するも間に合わず、頭の中が真っ白になる。ピンと足が伸びる。きゅっと耐えるように丸めた足先を、二村の太腿が押さえなおした。
「は……はぁ、はっ」
荒く息を整える俺など見えていないかのように二村の手が背中を擦る。悲鳴じみた声が漏れる。身をよじるも拘束から逃れることができない。伏せてこそいるが情けない顔になっているのは間違いなかった。
「アアアッ??! やだやだまって、むりだからッ」
「なんも聞いてねぇから早く楽になっちまえ」
快感に跳ねる体を、武骨な手が擦り続ける。恥ずかしくて、気持ちが良くて怖くてもどかしい。色々な感覚がないまぜになって泣けてくる。どうしてよいか分からない。体中のいたるところが熱をはらむ。触れられてないところさえ甘く痺れて。唇が薄く開いた。は、と熱い吐息が頭上にかかる。二村のものだ。汗が膝裏を伝う。快感に震えるとぽたり、雫が落ちた。
「にむ、あっ、ンンっ、はぁ……んっ」
「ハイハイ、きもちーきもちーな?」
軽い調子で流す二村だが息が荒い。部屋の温度も熱く感じるのは、自分の体温が高いせいか。しがみつく手を強めると、二村の体が僅かに固まった。
「んっ、アッ?! も、や、ああ!」
また震える。
頭の中が真っ白になる。
足の先まで痙攣する体に、死ぬかもしれないと思った。
ただ背を撫でられているだけなのに、こんなにも乱れる自分が信じがたい。どこか冷静な自分がそう分析するも、体は貪欲なまでに快感を拾っていく。聞いたこともない高い声が零れる。
快感に雫が頬を滑る。汗か涙か。どちらかは分からないが流れる理由は同じだろう。
ふと、二村の手が止まった。もう刺激はないにも関わらず、馬鹿になった体は震え続けた。どうしよう、気持ちがいい。気持ちが良くて、こわい。
しがみついていた二村の胴から顔を上げる。目を合わせ、驚く。
二村の目は何かを堪えるように俺を鋭く見つめていた。視線を合わせると思わなかったのか、二村の瞳が動揺に揺れる。二村、と呼ぶも返事はない。唇は噛みしめるように固く引き結ばれたままだ。獰猛にも見える顔に、薄く汗が走っているのを見た。挟み込まれたままの足を摺り寄せ、小さく乞う。
「も、らくになりたい」
「ッ」
二村が息を詰める。
同時、今まで触れることのなかった中心を二村の膝がぐいと押し上げる。頭が後ろに反れ、喉が曝される。ソファーから落ちかけた頭を二村の手が掬う。もう一方の手の止まない刺激に声なき声が漏れる。今までで一番強い快感。二村の口が首へと近づく。瞬間、走った痛みにハクリと喘ぐ。びくんと体が大きく跳ねる。痛いのに、気持ちがいいなんて。
白む意識の中、二村が何事かを呟く。返事をしてやりたいけれど、限界を超えた体ではどうにも難しいようで。俺はそっと意識を落とした。
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