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6-17 畠修二side

 テーブルの上のスマホが明るくなる。持ち主の手に触れる前にひったくるとブーブーと抗議の声が上がる。 「なにこれ、沖縄?」  俺の声に反応してひょっこりとピンクが画面を覗き込んだ。 「ちょ、見えないんだけど」 「ん~? あっ、橙のやつ今回やけに大人しいと思ったら沖縄着いてってるじゃん! い~な~! 僕もバカンスしたぁい~」 「これ赤ッスよね。うわ、盗撮? 今に始まった話じゃないけどちょっと友達やめたくなったッス」 「もっ、緑ったら! オトモモチにそんなこと言ったらメッでしょ!」 「たった今オトモモチやめたから大丈夫ですぅ~」  騒がしい。  カウンターの向こうではいかつい顔の男性が気怠げな溜息を吐く。 「あんたたち、まだ開店前なんだけど……」  ピンクはキョトンとした顔をすると少し黙った後、男性に投げキスをする。男性は嫌そうな顔をし、隣の緑はやれやれとオーバーなリアクションをする。 「なんでこれで絆されると思ったんスか?」 「緑なら絆されるし」 「桃、残念なお知らせッスけど桃の投げキスで『キューン!』とかふざけたこと言ってくれるのは優しい幼馴染である俺っちだけなんスよ」 「ウソ、僕これで食べていこうと思ってたのに?」 「化け物みたいな自己肯定感ッスねぇ。思わず見上げちゃった」  てへへと照れた素ぶりを見せる桃。駄目だ、こいつらに任せたらいつまで経っても話が進まない。カウンターを爪で弾き、話を急かす。 「それで? 大変だよ抗争が~赤が~! って俺を呼び出したんだから本題に入ってくれる?」  そもそもこの場に不思議な面子でいるのは、桃がクソ兄貴から流された俺の連絡先に電話してきたからだ。なんでも、兄貴は電話が繋がらなかったんだとか。最近は奥様の病室にいることが多いから連絡が繋がりにくい。それで俺にお鉢が回ってきたというわけだ。  桃は俺の指摘にハッとして、表情を改める。緑は指に襟足を絡ませ、だらけた格好で桃を見守る。なんだかなぁ、しまらない。 「最近ここらが騒がしいのは知ってる?」  言われ、近頃千頭高校が荒れていることを思い出す。生傷の絶えないクラスメイトはいつものことながら、その数が多いのは気になっていた。 「あれねー、Coloredの構成員が闇討ちされてってんだよねぇ」 「Coloredの構成員って言っても実のとこ入ってるだけの赤のファンみたいなのもいるから実働部隊かって言われると微妙なんスけど」  緑の補足になるほどと頷く。つまり、籍を置いてるだけの構成員が闇討ちされていると。クラスメイトを思い浮かべると自然と眉根が寄った。面子を重んじる奴らのことだ。仲間がやられたとあってはただでは済まないだろう。目の合った桃が不敵に笑う。 「まぁ、やられっぱなしは青に怒られちゃうよねぇ」  頬に添えられた人差し指がうっとりと顔の輪郭をなぞる。桃の眼が鈍く光る。底知れない迫力に息を呑む。 「……」  桃はキリッとしたまま緑の方に顔を向ける。緑の親指が天に向かって起き上がる。満足そうな桃にどっと肩の力が抜ける。なんなんだ、こいつら。  汗をかいたグラスがそっと差し出される。少しぬるくなっちゃったかも知れないけどと小声を出す男性にお礼を言う。タイミングを見計らっていたのか。ありがたくいただくと冷たい水は疲労感を洗い流した。 「で、赤が~って言ってたのはその話とどう繋がるのさ」 「え~、分かんないのぉ? 赤だってColoredの一員なんだよ! 狙われちゃうじゃん~」  小馬鹿にしつつふりふりと身を捩る桃。隣では緑がうんうんと頷き同意を示す。言いたいことを水とともに飲み込む。一度クールダウンした俺は、努めて落ち着いて言葉を返す。 「さっき君らが言ってたことだから知らないはずはないと思うんだけどね」  バカがと言いそうになるのを我慢する。由の友達なんだ、耐えろ俺。眉間を揉みながら二人に諭す。 「由は今、どこにいるんだっけ?」 「沖縄でバカンス!」 「……うん、それで、抗争はどこ?」 「櫻木市! あれ?」  あれ? じゃないよ。  もう出ていってもらっていいかしら。男性の声が辛辣に響いた。

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