1 / 16
秘密基地
昼休み、俺は行きつけのパン屋さんで買ったアップルパイを頬張りながら、校舎の屋上にいた。
空は綺麗だし、遠くで生徒たちの賑やかな声と、高い頭上で鳥のさえずりが聞こえる。
なんという癒し空間。
今だけは、ここは俺だけの秘密基地って感じ。だった、んだけれど。
「せんぱーい、お疲れーっす」
俺の癒し空間が、突如として打ち消される。
出入り口のほうを振り向けば『どうもー』という軽い挨拶とともに現れた、ひとりの後輩──紫乃 。
制服は一応ちゃんと着ているけど、整った顔と色素の薄い金の髪色は、どこぞの王子のようでもある。
そこにいるだけで、場が華やぐというか。
以前、食堂で見かけたときなんて、飯食ってるだけなのに遠巻きに女子からヒソヒソキャーキャー言われていた。
アイドルかよ、と思いつつ、でもそのアイドル気分を味わったことのない俺は、ちょっと羨ましいと思った。
派手な髪色に、恵まれた長身と長い手足。
日本人離れしたハッキリとした顔立ちだが、目だけは優しげで。
そのせいか、カタチばかりの丁寧語で、俺を年上だと全く思っていなさそうな態度でも、何となく憎めない。のが、不服すぎる。
ともだちにシェアしよう!