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秘密基地

 昼休み、俺は行きつけのパン屋さんで買ったアップルパイを頬張りながら、校舎の屋上にいた。  空は綺麗だし、遠くで生徒たちの賑やかな声と、高い頭上で鳥のさえずりが聞こえる。  なんという癒し空間。  今だけは、ここは俺だけの秘密基地って感じ。だった、んだけれど。 「せんぱーい、お疲れーっす」  俺の癒し空間が、突如として打ち消される。  出入り口のほうを振り向けば『どうもー』という軽い挨拶とともに現れた、ひとりの後輩──紫乃(しの)。  制服は一応ちゃんと着ているけど、整った顔と色素の薄い金の髪色は、どこぞの王子のようでもある。  そこにいるだけで、場が華やぐというか。  以前、食堂で見かけたときなんて、飯食ってるだけなのに遠巻きに女子からヒソヒソキャーキャー言われていた。  アイドルかよ、と思いつつ、でもそのアイドル気分を味わったことのない俺は、ちょっと羨ましいと思った。  派手な髪色に、恵まれた長身と長い手足。  日本人離れしたハッキリとした顔立ちだが、目だけは優しげで。  そのせいか、カタチばかりの丁寧語で、俺を年上だと全く思っていなさそうな態度でも、何となく憎めない。のが、不服すぎる。

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